flavorsour 第二章

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「──榛名さん」 「!」 突然聞こえた少し大きめの声にビクッとした。 (……あれ?) 俺の目の前にいた彼女が怪訝そうに顔を歪めていた。 「ちゃんと訊いていましたか?」 「……」 「榛名さん?」 「……」 (えーっと……この現状は) 俺はいつから妄想の世界に入り込んでいたのか? 妄想と現実の境目が一瞬あやふやとなって上手く言葉が口から出て来なかった。それはまるでのように──…… (拙い…!) あっという間に過去に囚われる──そう思うと忘れかけていた恐怖と憎悪が込み上がって来て吐き気を覚えた。 「ちょ、榛名さん、顔色悪いですよ?!」 言葉が出なくなった俺を心配したのか彼女が慌てて傍に寄って来て背中を擦り始めた。 ヤダ ドウシタノ トツゼン?! 背中を擦る彼女の掌の温もりと同時に感じた彼女の心の声。 その声は好奇心めいた茶化したような心配ではなく、本当に焦り驚いている心配だと解った。 ドウシヨウ キュウキュウシャ ヨンダホウガイイ?! ソンナニ トウバンセイガ イヤダッタノカシラ ソレナラソウトイッテクレレバ…… イヤイヤ ソンナコトヨリモ ドウシタラヨクナルノ?! コンナニクルシソウデ カワイソウ ナントカシテアゲナイト (ははっ、まるで音声多重放送) 俺を心配する彼女は口からも心からも同じような言葉を発している。いっている言葉と気持ちが同じなので混乱することがなく何も勘繰らずにそのまま素直に聞ける楽さが心地よかった。
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