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心ないひとこと。
「お待たせー!じゃあ、行こっかぁ。」声を掛けた希望を香菜が呼び止めた。
「お金、まとめて持ってこう。」
しっかり者の香菜が金融機関の封筒をひらひらと振ったので、希望と美乃梨は香菜にお金を渡した。金額を確認し封筒にまとめて入れた香菜に、
「香菜ちゃんって本当しっかりしてるわぁ。」感心したように美乃梨が呟いた。
ポーン
エレベーターがワンフロア下の男子エリアに到着した。香菜の持つ部屋番号と名前の書かれた名簿を見ながら、居室の並ぶ廊下へ向かおうとした時。
男子の休憩コーナーから会話が聞こえてきた。
「やっぱ東京の北川さんだよなぁ。美人だし。」
「噂では今年の新入社員の首席らしいぜ。」
「マジか!才色兼備、ってヤツだな。」
少なくとも3人、同期の男子が居る。どうやら女子をネタに会話しているらしい。
「まぁ、私達も男子の格付けしちゃうけどね。」美乃梨が苦笑いしながら小声で呟いた。
「ここ通るしかないね。」渋い顔をしながら香菜が小声で返した。
休憩コーナーはエレベーターホールの一番近くにあり、その奥に各自の居室がある。休憩コーナーを通らずに部屋に行くことができないため、3人で歩みを進めようとした時。
「次……札幌の黒沢希望は?」
ドキッ
歩き出したタイミングで、希望の名前が出てきた。名簿を見ながら話しているのか、五十音順に話題に登場しているらしい。エレベーターホールから短い廊下が続くため、休憩コーナーの男性陣はまだこちらに気づいていない。
自分の名前が登場したことで、希望の足がピタリと止まる。
やだ、何言われるんだろう……
モヤモヤが希望の胸に湧き上がった。
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