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多分、あそこで今、煙草に火をつけた人は、先刻コンビニで佳亮の前に並んだ、あの黒いコートの人だった。
ニット帽から覗いていた明るい茶色の髪の毛が、部屋のライトに当たって、その輪郭を分かりやすくしている。なにより、あのニット帽、あの真っ黒なハイネックは、間違いなく先刻の人だ。
(うわあ、…へえ…)
単身用のマンションが多いので、建物が別になると、途端に近所の人のことが分からなくなる。何故か都会の真ん中で知人に会ったような気分になって、少し心が浮かれてしまった。
(…ふぅん…)
そうか。あのきれいな顔の人が、こんな近くに住んでいたのか。
それは、洞窟で宝物を発見したときのような気持ちだった。やがてその人が煙草を吸い終わって部屋に戻ってしまっても、佳亮は窓辺から離れることが出来なかった。
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