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でも、そんなタイムロスをしても、なんとかスーパーの閉店時間には間に合った。案の定、もうレジを閉めたかった店員さんにちょっと嫌そうな顔をされてしまったけど、そこは勘弁してもらって、卵とハム、それからブロッコリーを買った。明日の朝ごはんにするのだ。
エコバッグに商品を入れて、手に提げてマンションまで帰る。道を歩きながら、そういえば、あの人はもう帰り着いて、またベランダで煙草でも吸っているのかな、と思って、ついあの人の住むマンションを見上げてしまった。すると、佳亮の予想通り、窓からの逆光の中、ベランダで煙草を吹かしている人影を見つけた。あの人だ。
その人は、ベランダに肘を着いて、ぼんやりと景色を見ているようだった。多分建物ばっかりで何も面白いものはないだろうに、煙草を咥えてぼーっとしている。その視線が、ゆっくりと駅のほうへ向き、そしてマンション下の道路に向けられたとき、佳亮ははっとした。ここで佇んでしまって、その人のマンションを見上げている自分は、どう考えても不審者だ。誤魔化すように自分のマンションに帰ろうと慌てたとき、焦って手に持っていたエコバッグを取り落としてしまった。ビニール製のエコバッグがくしゃ、と地面に落ちると、中に入れていた卵が明らかに割れた音がした。
「あ、あー…」
つい、声が漏れてしまった。明日の朝は、絶対にハムエッグと決めていたのに。
道にしゃがみこんで、バッグの中身を確認する。やはり卵は割れていて、中身が飛び出ていた。どろどろになってしまったバッグの中身に顔を顰めていると、頭の上から声を掛けられた。
「ねえ」
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