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「管理職無能レベル検査」は、1ヵ月という管理職使用期間に、エアーズが密かに設定したチェック項目に対し、管理職たちがいかなる対応を見せるかをチェックする検査=テストである。
チェック項目が秘密にされているのは、もしそんなものを公表してしまえば、試用期間の間だけ彼らはお行儀よく振る舞うはずであり、謂わばチェック項目自体が「正しい管理職のあり方」の安直なマニュアルと化してしまうからである。
それでは検査をする意味がない。
勿論、「管理職試用期間方式」と「管理職無能レベル検査」を一定期間に行っていることを示してしまっているのだから、当然多少の猫被りはあるだろうが、何をチェックされているのかがわからないことが重要だった。
つまり彼らに、管理職たるもの、どう振る舞えばいいか…ということを、よく考えさせながら、その中で秘められたチェック項目によって「無能レベル」を判定するという方式が採られていたのだった。
1ヵ月が経過し、すぐ結果が出た。
およそ65%の管理職が、無能レベルにあることが判明したのだった。
もし抜き打ちでテストしていたら、もっと悪い結果になったであろう。
そう考えると、わが社の停滞ぶりと、未来への暗い影を感じざるを得なかったが、それまで社内では地味な存在だった、とある一課長が、その部下への対応能力や、仕事への責任感、または他社の得意先からの評判などが上々であることから、課長から部長に昇進したのは、明るいニュースであった。
この課長は、社内的な派閥や政治のようなものに全く関心がなく、出世も強く望んでおらず、今、一人の課長として、責任と職務を全うして会社に貢献できるかどうかということを一番に考えていたタイプで、そういう人間性、職能、目の前の問題ときちんと向き合う態度が評価されたのだった。
前にエアーズに勧告を受けたあの営業課長は、やはり無能レベルにあると認定され、降格となった。
しかし出世した課長も、今後部長となって、部長として有能であるかどうかはわからない。
課長として有能だったから部長になったのであって、部長として有能だと分かったから昇進したわけではないからだ。
今後、この有能な課長が、いきなり"無能レベルにある部長"となる可能性も十分あった。
だからエアーズは、そのことを出世した課長にも告げたが、元々出世欲のあまりのないこの課長は、だったら私は今の課長のままでいい、有能な人材を有能な状態でポストに就けることを目的としているのだから、私が課長として有能だと認定されたのなら、課長として仕事をしていくことがベストではないかと言い出したのだった。
エアーズは、確かにそれは正論であると認めたが、しかし残念なことに、部長クラスに留まる人材に、有能レベルにある者があまりにも少なく、彼らに比べればこの課長の方が遥かに優秀であることなど、入社1、2年目の社員にだってわかる話だったので、なんとかこの課長には、部長を務めるよう、エアーズは説得することとなった。
しかし元々「ピーターの法則」とは、その解決策として、寧ろ出世することになった課長が言っていた、"有能な人材を有能な状態で適した役職につけること"を提案しているところもあったので、エアーズとしてはこの問題に関して、何度も話し合ったようだった。
結果、他にも有能さが大きく発覚した一人の係長は、課長に昇進させず、係長としての職務をそのまま遂行させることに決まった。
この係長は、寧ろ課長になり部長になっていくことを望む上昇志向の強い男であったが、いかんせん、まだ係長になって年数が浅いことと、課長職に就いた途端、その上昇志向の強さが無能レベルの萌芽となる危険性が感じられたので、この係長には有能レベルにあることだけを伝えて、今後も頑張るように、と告げるだけに止めたようだった。
この係長の話は、この当時は知らなかったが、後から聞かされた話だ。
それもエアーズリーダーの口からである。
このリーダーと自分は、その後、何度か話す機会があるのだが、その発端となる事態は、この「無能レベル検査」の後すぐにやってきた。
なんとエアーズは「管理職無能レベル検査」を行い、社内で悪い空気を流す上司たちを取り締まっていたのに、今度は「空気の読めないワースト社員への勧告」を行うと言い出したからである。
そして、空気があんまり読めない自分は、当然のように、そのワースト社員の1人に入っていたのだった。
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