C1:6/17:栃木県居種宮市『ビルから脱出せよ!』 5:外へ

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C1:6/17:栃木県居種宮市『ビルから脱出せよ!』 5:外へ

「肋骨が折れてる。肺に刺さってる可能性もあるわ。救急車、は呼べないのよね」  老婆の言葉に野崎と大根田は頷いた。  電話は繋がらない。  瓦礫の撤去は急ピッチでやっているが、病院はすぐ近くには無い。  運よく外科医が外を通りかかる確率に賭けるには、皆正気がありすぎる。 「あたしは――足柄よ。足柄(あしがら)きみな。六十七歳。財布に入ってる免許証に住所は載ってる。独身で身寄りは無い」  大根田は額に浮かんだ汗を拭う。 「足柄さん、他の手は――」 「ちょっと君、この子の服をめくるから離れていてちょうだい」  少女を助け出した少年は、頷き窓の方に走って行った。  足柄はボロボロになった少女の上着を丁寧にまくり上げる。胸部は青黒く変色し、肋骨の一部が皮膚を突き破って外に飛びだしていた。 「この傷じゃあ、私達じゃあ運べないわ。頭も打ってるから時間も残り少ない。となれば――」  足柄は少女に手を(かざ)す。  ぼんやりとした光が彼女の手の下に現われた。  野崎がごくりと唾を飲む。 「な、治せるのか? 治せるんだな?」 「できるわよ、多分――できる気がする。でも、これって相当疲れるんでしょう?」  大根田は、はいと小さく答えて後ろを見る。  自販機を放り投げた男、五十嵐(いがらし)竜二(りゅうじ)は胡坐をかいて(うつむ)いている。阿部山も同様に荒い息をついていた。十勝に至っては床に伸びている。 「ぎっしりと疲労が来る感じだな」  野崎はそう言って肩を回した。大根田は苦笑する。 「お前、まだまだ余裕そうだな……俺はもうガス欠だよ」 「ふん、あれだけやりゃあ、ガス欠にもなるだろ。俺はあいつの爪を一回、いや二回防いだだけだ」 「能力が使えるって判ったのは、瓦礫をぶつけられる前か?」 「おお、まあ瞬間だな。ヤバイ! やってやらぁ! ってなもんよ」  大根田はやれやれと頭を振った。 「やっぱりお前は凄いよ」 「ふふん、お前には及ばんがね」  野崎はそう言って、足柄に笑いかけた。 「そういうわけですから足柄さん。疲れはするが――死にはしない、と思います。多分」 「多分、ね。それは心強い……わね!」  光が更に強くなり、ぶつりという音ともに髪留めが切れ、足柄の白く長い髪が顔にかかった。汗がどっと吹き出し、体が小刻みに震える。 「こ、れは――凄い、頭を(おさ)えられて(しぼ)られているみたい――」  少女の身体も小刻みに震え出した。  ごりっごりっという音と共に、皮膚の下で骨が動いているのが判る。  だが、少女の顔色は段々と悪くなっているような気がする。  足柄の息も荒くなってきている。 「これは――だ、大丈夫なんですか……」  流石にスマホは構えていない中里の震える声が後ろから聞こえ、大根田はハッと思い当った。彼女の足をつつく。 「中里君! 足柄さんと、この女の子を『応援』してあげて!」 「……ほへ? どーいうことすか?」 「ほらほらいいから! いつもみたく派手にやって! がんばれー! って。さっき僕に言ったみたいに!」  野崎も頷くのを見た中里は、まあそれならと手を後ろで組んで胸を反らした。 「じゃ、じゃあ、コホン―――――フレー! フレー!! あ・し・が・ら!!! フレフレフレ足柄! 頑張れ頑張れ女の子! よいやさああああああああっ!!!!!」  想定していた物とは斜め上に違う応援に呆気にとられていた大根田だったが、すぐに効果が表れているのに気が付いた。  足柄の汗が引いてきている。  少女の顔色も良くなり(まぶた)がぴくぴくと動いている。 「そ、その人、凄いわね! 体が軽くなっていくわ! ああ、色々判る! 傷が治っていくのが判るわ!」  足柄のワクワクしたような声に大根田の顔がほころんだ。 「いいぞお! 中里君! 君はやっぱり凄い子だ!」 「おほめに預かり恐悦(きょうえつ)至極(しごく)ぅぅぅっ! フレー! フレー! み・ん・な!! 頑張れ頑張れ、そこらの人ぉっ!!!」  調子に乗った中里が数分後に、もうヘロヘロっす、と座り込むと同時に少女が目を開け、五十嵐、阿部山、十勝も顔を上げた。 「えぇ、それでは――明日の予定を発表します」  瓦礫の撤去が終わり、足柄による他の怪我人の治療が終わると、皆が外に出始めた。  野崎は自社の人間を集めると、コホンと咳ばらいをする。 「明日はまず、階段の化け物どもを駆除します」  大根田達が降りてきた非常階段には、野崎が 『化け物います。6/18に駆除予定。解放厳禁』  と書いた紙を貼りつけていた。 「しゃちょ~、あしたなんじからですか~?」  まだ若干ヘロヘロの中里の質問に野崎がううむと唸る。 「そうだな……一応昼の二時くらいからにするか。勿論参加できる人だけでいい」 「あらおそ~い。そしてゆる~い」 「緩いのは君だ中里君。  皆さん家の片づけやら何やらがあるからね? あと危険だというのは皆嫌ってほど判ってるしな。強制はしないよ」  そうよねえ、と遠藤と伊東がうちの人は無事かしら、あと晩御飯はどうしようかしら、と雑談を始める。  佐藤が手を挙げた。 「社長、今日のシフトは――」 「ああ、大丈夫。全員ラストまでいた事にするから。休憩は一時間ね」  良かったと息をつく佐藤の脇を中里がつついた。 「でもさとうく~ん、きゅうりょうでないかもよ~。びるたおれちゃってるし~」  野崎が中里君、だまりなさーいと言う。  大根田は手の中で琥珀色の結晶を転がした。  それは塵と消えた二つ頭の立っていた場所に落ちていたのだ。  大きさ、太さはは人差し指ぐらい。固く滑らかで、転がる度に虹色の光が中で複雑に反射する。  地震の影響で地中から出て来た物だろうか?   それとも、あの化け物から出て来た物か?  持っていても害は無いようだが――  大根田は頭を振った。  今はもっと他に追及すべき問題がある。これは後回しでいい。 「誰かほかに何かありますか?」  野崎の言葉に大根田はちょっと躊躇してから、おずおずと手を挙げた。 「……あの、社長、ちょっと、お聞きしたいことが」  野崎がすうっと真顔になる。 「…………なんでしょうか大根田清さん」  中里が、あは~、タニンギョウギ~とヘロヘロと言う。 「明日の駆除作業ですが……道具として、うちにある日本と――」 「却下します! そこらで鉄パイプ見つけて来てください!」 「ええ~、持ちにくいんだよ~。しっくりこないんだよ~。刀持ってきたいよ~」 「うるせえバカ! 銃刀法違反どころの騒ぎじゃねえだろ!」  十勝がふんと鼻で笑った。 「まあ、警察もそれどころじゃないでしょうけどね」  そうよねえ、と全員がざわざわしだした所で野崎は大きく手を打った。 「はい! ではとりあえず今日は解散! 明日来ない人達は――私は一日一回必ずここに来ますので、何かあった際は伝言なり置手紙なりで必ず連絡してください!  以上!   気を付けて帰ってください!!」    C1 了  予告:  ビルの外に出た大根田達の目の前に広がる、変わってしまった日常! 駅を経由して自宅を目指す彼ら一行の前に、巨大な『何か』が立ちふさがる!  次回C2 『自宅に向かえ!』  お楽しみに!
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