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「いいえ、全く。どこから漏れたんでしょうね。」
「それを今探ってましたね…全く手がかりが出てこない所が手がかりかも知れませんなぁ。」
「ほぉ。と言うと?」
「内輪から出た情報…と言う可能性ですな。」
「それは、うちを疑っているという意味ですか?それとも前田さんの身内、という意味ですかね。」
男達はギラリと鋭く目を光らせて、空気をひりつかせている。
私には関係の無い話だが、ご飯が不味くなるので早々に化かし合いはやめてもらいたい。
坊っちゃんは関係あるのか無いのか分からないが、私と同様ご飯に夢中なようだ。
「さぁて。今は両方と言っておきましょうか。決定的なものはまだ見つかってないのでね。」
「そうですか。そちらから見つからないことを期待してますよ。」
「はっはっは。有り得ませんな。」
「本当にそう言い切れますか?」
頭の挑発にぐっと眉をしかめ険しい顔をした前田だったが、一瞬で感情を殺しニヤニヤと下品に笑った。
「はっはっは。皇さんも人が悪い。」
「いえいえ。前田さんには及びませんよ。」
デザートの果物を頬張りながら、ヤクザって面倒な職業なんだとしみじみ思ってしまう。
美味しい料理を前に、こんな訳の分からないやり取りで何がしたいのだろう。力で捩じ伏せれば良いのに…。
瑞々しい果実の滴が喉を潤わせ、口の中に柑橘系の爽やかな香りが広がった。
「ご馳走様でした。」
手を合わせ礼をすると、前田がこちらに話を振ってきた。
「響さん…でしたかな。キレイに食べられますなぁ。」
「お誉め頂き、光栄ですわ。前田様。」
得意の笑顔を振り撒くと、前田はキョトンとした後盛大に声を上げ笑った。
「はっはっは。前田様と来ましたか。こんな別嬪さんに様付けで呼んで貰えると悪い気はしませんなぁ。」
「ベッピンとは…何ですか?」
「キレイなとか、美人とかいう意味だよ。」
頭に聞いたつもりだったが、坊っちゃんが丁寧に教えてくれたので「教えて頂き、ありがとうございます。」と笑うと、彼は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やり取りを見守っていた頭が、ふわりと笑って前田へ呼び掛けた。
「うちの方でも告げ口の件は調べていますので、分かり次第ご報告させて頂きます。」
「おぉ、助かります。結果が分かるまで取引は怖くて出来ませんなぁ。」
「そうですね。」
「また皇さんが怪我でもされたら、大変ですからな。お体はもう宜しいんですか?」
「お陰様で。お気遣い痛み入ります。」
「はっはっは。何かあれば、いつでも連絡して下さい。長田組と山崎組の繁栄の為にも、これからも宜しゅう頼んますわ。」
「はい。では、予定が入っておりますので、申し訳ありませんがお先に失礼させて頂きます。──響。」
スッと立ち上がった頭に倣い、私も静かに立ち上がり坊っちゃんと前田に視線を向けて「失礼致します。」と微笑んで扉を開けた。
頭を先に部屋から出し、座っている二人に改めてお辞儀をしてからわざとゆっくりと扉を閉めた。
ギリギリまで坊っちゃんと視線を絡ませる為に……。
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