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夜になり、黒塗りの車に乗り込んだ。
運転手は都築。助手席に宮田。そして、後部座席には私と頭だ。
外の景色に目をやると、光の洪水が流れていく。
車のライト、街灯、ビルの窓から外へ漏れる蛍光灯の光…星も霞んでしまうほどの眩しさに、私は視線を下げた。
すると、自分の体を包んでいる白のワンピースが視界に入り、あやうくため息が漏れそうになる。
薄くて軽く、ハリのある白のオーガンジーがワンピースに沿うように全体を包み込んでいて、裾には可憐なレースも飾られていて、キレイと言うか可愛いと言うか…素敵なワンピースだとは思う。
しかし私に、こんなフワフワした服が似合うとは思えない。次は着物を用意してと言おうとしたけれど、部屋を出た所で満足そうに「似合ってる…キレイだな。」なんて頭に言われてしまい、二の句が告げずに居たのだった。
──キィッ。
緩やかに速度を落とした車が、ゆっくりと停まる。
どうやら目的地に到着したようだ。
都築が恭しくドアを開けて、頭を外へ誘導している。
そして誘導された頭は私の方へ回り込み、ドアを開けて私に手を伸ばして微笑みかけた。
「着いたぞ。」
「……えぇ。」
「ん?どうした?」
どうした?ですって?こっちの台詞よ。
何故貴方が、ドアを開けて手を伸ばして待ってるわけ?
差し出された手には触れずに、スッと背筋を伸ばして立ち上がった。
そんな私の態度を咎めることなく、頭は都築へ視線を送る。
「予定は1時間だったな。」
「はい。何かあればすぐに参ります。」
「ふっ、何も無い。ただの食事だ。」
「宮田。帰りも頼む。」
「はっ、はい!行ってらっしゃいませ、お頭!!」
応援団のような大きな宮田の声が、静かな一角にこだまして風情を台無しにしていた。
木造の2階建の料亭の外掘りには、目に優しい緑が沢山植えられている。石畳が入口まで続いており、その先に暖簾が見えた。足元は行灯がぼんやり淡く照らしていて、幻想的な雰囲気を作り上げている。
こういう雰囲気は好きだ。もといた村の屋敷を思い出す。
思わず建物を見つめていると、頭から声がかかった。
「行くぞ。」
「…はい。」
草履とは違う硬い感触のピンヒールは歩きづらく、頭の後をゆっくりと着いていった。
暖簾をくぐると、木の良い香りがふわりと鼻腔を擽る。
玄関の敷居の前で靴を脱ぐと、着物をきた女性が丁寧に靴箱へ入れてくれた。廊下から見える庭には、灯籠がほんのりと周りを照らしていて──街のギラギラした灯りよりも落ち着いていて好ましい空間だった。
人間の世界のことを熟知しているわけではないが、ここは良い場所なのだということは肌で感じる。
しっかりとした木で出来た扉を横へスライドさせ中へと入ると、畳の上には、一枚の木から作り上げられた豪華な机がドンとあり座布団が両側2枚ずつ、計4枚敷かれていた。部屋の奥には襖があり、まだ奥に部屋があるのかと驚いた。なにせ、通された部屋だけでもかなり大きな一室だったからだ。
備え付けられた窓は、料亭の中へ続いているようで好ましい灯りが優しく射し込んでいる。生花も飾られた何とも素晴らしい一室に目を奪われていると、クスリと笑い声がして我に返った。
「気に入ったか?」
「まぁ、貴方と出会った場所よりはね。」
「そうか。相手はまだ来てないようだな。座ろう。」
上座は相手にとっておくのか、扉に近い側に私達は腰を下ろした。
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