160人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう言えば、何故私を同行させたのですか?都築という男の方が向いていると思いますが…」
おや?という顔でこちらを向いた頭に、何か変なことを言ったかと首を傾げる。
「まぁ、お前の言うことも一理あるが…今回はこれが良いんだ。」
「そうですか。」
良く分からない返事だが、扉の開く音がして会話はそこで途切れた。
立ち上がった頭に続いて私も立ち上がると、目の前の男達が驚いたように私を見ていた。
いかにもな風貌の男達がたじろぐ姿は、少し面白くて。
「初めまして、響と申します。」
彼らに一礼をして、美しいと称賛される柔らかい笑顔を向けると、後ろの若い男は分かりやすく顔を赤らめた。
簡単に反応する男を見るのは、存外悪くはない。
心の中でほくそ笑んでいると気を取り直した男達は席へ着いてから、再びこちらと向き合った。
若い男はチラチラと私を見ているので、わざと視線を合わせ微笑んでやると、途端に瞳を輝かせた。
ゴホン。と咳払いをした若い男の隣の、イカツイ男がじろりと私を睨んだ。
「遅れて失礼。失礼ついでに、そちらの方は…皇さんとどういったご関係で?」
「あぁ。この度秘書になりましたので、お目通ししておこうと思い連れて参りました。男ばかりのむさ苦しい食事よりも、女性が居た方が和むかと。」
「秘書?ほぉ。秘書ねぇ。」
不躾な視線を寄越すイカツイ男は長田組副組長、前田と名乗った。若い男は長田組の坊っちゃんで、長田 佑介というらしい。
そして、頭のフルネームが皇 孝一だと初めて知った。
自己紹介が終わると、タイミング良く料理が運ばれてきた。
六等分に仕切られた箱の中に、丸や四角、紅葉等の葉の形をした一口サイズの器があって、その中に刺身や煮物等がキレイに盛り付けられている。籠に入った天ぷらも、お吸い物も、全てが美味しそうで、また見た目もとても色鮮やかだった。白い鯛の下から覗く大葉の緑、橙色のほくほくした南瓜に添えられたサヤインゲン、菊の黄色、人参の赤、ほうれん草の緑…数え上げればきりがない程、美しく彩られた料理に感心のため息を漏らした。
「まずは、美味しい料理を頂くとしましょう。」
前田のガサガサの声がそう告げて、思わず頷いてしまった。
「頂きます。」
頭の艶やかな低い声に続いて、私も「頂きます。」と呟き料理を口に運んだ。
ほのかに広がる出汁の旨味と食材の味。舌触りや食感もそれぞれ違っていて、何を食べても美味しかった。何の目的で連れられたのか分からない私は、食事に専念することにして次から次へ平らげていく。
半分ほど料理を減らしたところで、前田が頭に話しかけた。
「そういえば、小耳に挟んだんですがね。あの取引…どうやら警察に告げ口した輩がおるらしいんです。ご存知でしたか?」
知的さを全く感じられない品の無い笑みを浮かべる前田と、それを表情を変えず聞いている頭の間には、見えない火花が散っているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!