スマホと口づけ

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◇◇◇  お頭の部屋へ行くようにと都築から言われて、座椅子に腰かけているお頭と向き合う形で正座をしている。 「ご用でしょうか?」 「あぁ。前に会った坊っちゃん、覚えてるか?」 「えぇ、勿論。あの食事会は、彼をたぶらかす目的で私を連れて行ったのかと思っておりました。」 「あー、まぁ間違っちゃいないが…もう少し言い方ってもんがあるだろ。」  図星だったようで、頭は居心地が悪そうに頭を掻いている。 「ふふふ。今度は、色仕掛けでもすれば良いのでしょうか。」 「だから言い方な…まぁ、当たらずとも遠からずだ。」 「お頭は彼と敵対関係なんですよね?その相手を落としたいと言うことは…彼を捕虜にするのですか?」 「いや。お前には、情報を聞き出して欲しい。」 「情報を…。」 「あぁ。それより、先に確認しておきたいことがある。」  スッと居住まいを正すと、真面目な顔つきでこちらを見た。 「これから先のことはお前に利は無く、むしろ危険な目に合う可能性がある……が、出来れば協力して欲しい。お前にとって魅力があるかどうか分からんが、多少の報酬は用意するつもりだ。…引き受けてくれるか?」  真っ直ぐに見つめる視線の強さに、彼の本気が伝わってくる。 「前から言っている通り、人間に対して危険を感じたことはありません。貴方には世話になった恩もありますから、協力させて頂きます。」 「そうか、助かる。ただし覚えておいて欲しい。鬼でも…危険に晒される薬が存在することを。」 「ふふふ。それでしたら、よく存じております。」  村に居た頃、人間から手に入れた『麻薬』という薬。  鬼には催淫剤、媚薬のような効果があると実証済みだ。 「は?知っている、だと?」 「まぁ、色々ありまして…。それより、坊っちゃんから何を聞き出せば良いのでしょう?」 「待て。俺は、お前に危険なことはして欲しく無い。むやみに体を使ったり、自分を安売りするな。」 「あの…仰ってる意味が分かりません。体を使えば手っ取り早いではありませんか。」 「……。」    私の言葉に、彼は口を開けたまま絶句した。  何も自分を大切にしていない訳ではない。むしろ、体を使って誰かの役に立つならそれで良いのではないか?と続けた私に返って来たのは、見ているこちらが胸を痛めるほど悲しげに歪んだ表情だった。
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