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「……とにかく、コレを渡しておく。」
頭に手渡されたのは、黒い滑らかな四角い板のようなものだ。
「コレは…何ですか?」
「スマホだ。話をしたり、文章のやり取りが出来る。」
「へぇ、こんなもので……便利なのですね。」
思わず裏面をひっくり返してまじまじと眺めていると。
私の左横に移動してきた頭は右手を伸ばして、私の手の中のスマホを器用に操作し始めた。
「ここを押すと、俺の名前が出る。これで下の緑のボタンを触れば俺の電話に繋がる。」
心地よい低音が耳を掠め、彼が言葉を紡ぐ度ふわりと私の髪を揺らす。
「あとは、これだ。これは文章のやり取りが出来る。こうやって触れば使えるようになるから……。おい、聞いているのか?」
「え?」
「何故……赤くなってるんだ。」
困惑した瞳が私を写している。そこに写る顔が、果たして赤いのかどうかはぼんやりとしていて分からない。
ただ、何故か……危険なことはして欲しくないと言うこの人の言葉が。
悲しげに歪んだ顔が…胸の奥を締め付けている。
「分かりません。あの…少し離れて頂けますか?」
「今のはちゃんと覚えたのか?操作出来たら離れてやる。」
少し震える手で何とか操作し終えると、離れるどころかそっと手を取られた。
「…頼むから、無茶なことは考えるな。」
触れられた指は、大きな彼の手によって熱を帯びる。
「坊っちゃんにはお前の連絡先を教えるだけでいい。二人で会う約束を取り付ければ、それで十分だ。分かったか?」
言葉が出ずにコクンと首を縦に振った私を、目を細めて見たお頭は──子どもをあやすように私の頭をよしよしと撫でて離れていった。
まだ温かさが残っている自分の頭に手を伸ばしながら、私はボソッと呟く。
「な、何ですか。今のは……」
「ちゃんと約束が守れたら、また撫でてやる。」
「……要りません。」
「それは残念だな。」
フッと微笑む彼の顔には、まだ少し憂いが残っていて。
どうしてそこまで、私を心配するのか理解出来なかった。
それに、ぽかぽかと温かいような気持ちがするのはどうしてなのか。頬がいつもより熱く感じるのは、一体何なのか。
初めてのよく分からない思いに混乱しながらも、また彼に頭を撫でて欲しいような気がして……気付かれないようにそっと自分で撫でてみたのだった。
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