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すやすやと眠ってしまった響を布団に横たえ、掛け布団をかけて部屋を出たところで、廊下の向こうから歩いてきた都築とバッタリ会った。
「響さんの所でしたか。随分なつかれましたね。」
「…まぁな。」
ふっと笑うと、都築も柔らかい雰囲気で答えた。
「お頭、明日はお気をつけて。」
「あぁ。お前には色々気苦労かけてすまんな。」
「とんでもない。あの…響さんは、大丈夫なんでしょうか?」
「心配か?」
「そうですね。何だかんだと、ここへ来てもう一ヶ月です。掃除したり今では食事の準備もしたり、服を繕ってくれたり細かいことまでやってくれてます。それにあの器量なので、若い衆達とも仲良くやっているようで。」
「それは何よりだな。安心しろ、響は守る…勿論お前達もな。」
「はい。」
「お前も早く休めよ。」
「お心遣いありがとうございます。おやすみなさいませ。」
ピシリと一礼をした都築は、部屋の方へと戻っていった。
万が一、俺に何かあったとしても都築が居れば大丈夫だ。
経営戦略や株取引など、経済に明るいのは俺よりも都築であって、本部に上納している金の全ては都築が生み出しているといっても過言では無い。
インテリヤクザと呼ばれる、極道らしからぬ手法──知略で金を生み出す俺達は、スーツに身を包みサラリーマンのような出で立ちだ。ちょっと怖そうなだけで。
法律を侵しているわけでもなければ、犯罪に手を出すわけでもない。何時だって真っ白だ。
昔ヤンチャしたり、道を踏み外しそうになったりした者も多いが…何も将来まで棒にふることは無い。
根っからの悪は居ないと。いつの間にか父のように、そう信じている自分自身がいた。
「……。」
響を母のように、死なせはしない。
母を守りきれなかった後悔を、響で果たそうとしているだけかも知れない。
しかし…それだけでは無い気がしていた。
響は、なんというか…体は馴れてる風だが、心の機敏に疎い所が危なっかしいと思う。
ゆっくり過ごせばいいものを、彼女はだらだら過ごすことも無く、自分に出来ることを自ら探して一生懸命やる姿も好ましい。
「なついたのは、一体どっちなんだか……。」
麻薬ルート壊滅の為とはいえ、坊っちゃんと連絡を取ることさえヤメロと言い出しかねない自分の心に苦笑いを浮かべた。
まずは自分の仕事をしっかりやらねぇとな。
明日の会合に向けて、俺はゆっくり睡眠を取ることにして瞼を落とした。
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