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「あの、響さんですがね。どういう経緯で皇さんの所に来たんですかな?」
「拾ったんですよ。」
「拾った?道に落ちてたとでも?」
「えぇ。そうなんです。」
「はっはっは。そんな冗談言うて皇さんは人が悪い。あんなええ女、道に落ちてたらヤクザで無くても皆拾って帰りますわ。」
「信じなくても構いませんが、事実ですよ。」
「へえ……そうですか。」
人は得体の知れないもの、分からないものに怯えるものだ。
響の身辺を調べたが何も出てこなくて、焦っているのか?
危害を加えるというよりは、どういう意図で彼女がここに居るのかが気になる…という所か。
「前回ご一緒した時の帰り、響が前田さんの男ぶりが素敵だったと言ってましてね。今回お誘いがあったことをどこからか知って、着いていきたいと言って聞きませんでしたので連れて来ましたが…もし前田さんが心配なら、次回からは外すようキツク言い付けますよ。」
「はっはっは。いやいや、それには及びません。響さんには、是非次も来て頂きたいですなぁ。」
「それは、良かった。彼女が聞いたら喜ぶと思います。」
坊っちゃんと連絡先を交換出来れば、もう響はここに来る必要がない。
前田側から来ないで欲しいと言ってくれるのがベストだったが、流石にそこまで望むのは無理のようだ。
ねちっこい絡めとるような前田の視線を、俺は料理を選ぶ仕草で自然と外した。
「それにしても、拾ったっちゅーのがほんまやったら…ええ駒を手に入れられましたなぁ。うらやましいですわ。」
駒だと?
使い捨てることを何とも思っていないからこその言葉に反吐が出る。
感情が出ないように腹に力を入れて、にこりと微笑んだ。
「……そうですね。ラッキーでしたよ。」
お互いを牽制するように顔を付き合わせていた俺達は、扉の開く音に視線を流した。
「待たせてすまなかったな!もう大丈夫だ!」
「それは良かったですなぁ。…響さんは、何やら具合が悪そうですが、大丈夫ですかな?」
「…──えぇ。大丈夫です。」
意気揚々と戻ってきた坊っちゃんと違い、響は明らかに表情が暗く落ち込んでいるように見えた。
何があったのか今すぐ退室して聞き出したいが…そういうわけにもいかない。
横に座った響に目を向けると、覇気のない顔をこちらに向け、彼女は大丈夫だと言うようにコクりと頷いて見せた。
「ご心配おかけしたようで、申し訳ありません。私の不手際で長田様にご迷惑をかけてしまったのが心苦しくて…それだけですわ。」
「そうでっか。まぁ、無理はなさらないほうがええですよ。」
「お心遣い、痛み入ります。」
前田が始めに言っていた他に気になることと言うのが、どうやら長田組の周りを警察が探っているらしく、山崎組との取引以外も行動が制限されているようだ。
「正直参ってますわー。取引はまだ先になりそうで、そちらにも迷惑かけますなぁ。」
「お気遣い無用ですよ。」
それから数十分後。
皆が料理を平らげた所で会合はお開きになった。
今回は長田組の二人が先に部屋を出て行ったのだが、最後に意味深な視線を響へ送る坊っちゃんを見て、響はうまくやったのだと理解した。
が、やはり響の様子はおかしいままで。
車に戻った俺達は、宮田の運転でゆっくり屋敷へと向かっていった。
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