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「頂きます。」
都築に続いて各々が「頂きます」と手を合わせご飯を頬張る。
美味しそうに食べる皆の顔を見ていると、自然と笑みが溢れた。
ふわふわのだし巻き、美味しい。
ご飯とともに口のなかでふわりと卵と出汁の良い香りが広がる。
きっと私も、皆のように美味しいという顔をしているのだろう。
──不思議だわ。
村を飛び出した時は絶望しか無かったのに。
雨に打たれて路地裏に居た時には、こんなに温かい時間が訪れることなんて想像も出来なかった。
孝一さんと出逢えて…良かった。
親切で優しいここの人達の為にも、そして何より孝一の役に立ちたい。
私は……向かいに座って、ご飯をかきこんでいる宮田にそっと目を向けた。
「ご馳走様でしたー!はー、うまかった!」
ご飯を食べ終わると、それぞれのタイミングで部屋を出ていくので人一倍食べる宮田を待っていたら部屋の中に残っているのは私達だけになっていた。
立ち上がり宮田の前に移動して腰を下ろすと、お腹をさすっていた宮田が不思議そうにこちらを見た。
「ん?どうしました、姉さん。」
「実は、宮田さんにお願いしたいことがあって…。」
「はい!俺に出来ることなら何でも!」
姿勢を正してニカッと笑う宮田を見ると、自分のワガママに付き合ってもらって申し訳無い気持ちと、宮田なら大丈夫そうだと希望が湧いてくる。
「では、口づけてもらえますか?」
「ん?……え??」
「口づけです。して頂けますか?」
「口づ…けええぇぇ?!!ええ?姉さん、ちょ、正気ですか?!」
私から後ずさっていく宮田を、畳の上に手をついて距離が空かないように追いかけた。
「正気です。宮田さんは……私に口づけするのは無理ですか?」
「いや!無理じゃないッスけど……そういう問題…ではないというか……えっ、あの……」
「では、お願いします。宮田さん。」
壁で行き止まりになって後退出来なくなった宮田に近付き、鼻がくっつくほど顔を近付け目をつぶる。
「えっ……マジッスか…うううん…」
唸るばかりで動かない宮田にゆっくり近付いていくと、勢いよく立ち上がった宮田が応援団顔負けの大声で叫んだ。
「や、やっぱりダメっス!俺っ……孝一さんに合わせる顔が、なくなるっス!!」
顔を真っ赤にして拳を握り締めてぷるぷるしている宮田に、はて?と首を傾げる。
「…何でここで孝一さんの名前が?」
「え…姉さん、本気で言ってるッスか?!」
お互い呆然とした表情を付き合わせていると、後ろから声がかかり──声の主を見て宮田が大きく身体を揺らした。
「俺がどうかしたか?」
「こ、こっ、孝一さん!いえっ!何も無いっすよ!姉さんとキスしようとしてたとか、絶対無いッス!」
「ほぉ?」
「いや、違っ!未遂、というか…あの、誓って!何もして無いッス!」
宮田の嘘のつけない性格が災いし、ほぼ全てバレてしまった。
後ろから放たれている孝一のオーラは、振り返るのを躊躇わせるほどの怒気を放っている。
「じゃ、俺は失礼しますッ!!」
「……。」
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