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◆◆◆
大人げないのは分かっていた。
しかし、感情というのはままならないものだ。
初めて見る響の悲しげな表情に胸が痛んだが、それを上回る憤りが俺の中に燻っていた。
いまだに自分のことを軽視しているような言動も腹立たしいが、それよりも俺では彼女の心をほぐしてやることが出来ないという苛立ちが上回っていた。
部屋に戻りスLINEを開き、坊っちゃんとのトーク履歴に目を通す。
「響さんは今まで見た女性の中で、一番キレイです。」
『そんな…お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます。』
「また響さんに会いたい。」
『こちらこそ、お会いしたいです。』
「明日、22時頃連絡してもいいですか?」
『はい。楽しみにお待ちしてます。』
響の返事は無難なものだったが、頭に血が上っていくのを感じる。
あわや握り潰しかねない圧をかけてしまい、ミシッとスマホが悲鳴を上げたのを聞いて慌てて力を抜いた。
「はぁ……全く。何をしてるんだ俺は。」
響を傷付けて、若造とのやり取りに苛立って。
本来の目的である麻薬の壊滅は、何も進んでいないというのに。
とりあえず、明日連絡が来るようなので響に、二人で会いたいと言わせよう。
上手くいけば向こうが響のために取引を持ちかけてくる可能性はある……誰が中国との仲介をしているか聞き出すのは難しいかも知れないが、取引が無いことには進展しない。
真っ暗になったスマホの画面に写りこんだ自分の顔があまりにも情けなくて、目を背け目蓋を閉じた。
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