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孝一と呼ばれた男が、もし本当に私を鬼だと判断出来たのだとしたら、その理由を聞いてみたい。そう思って若い男を促してみたが、頭に血が上っているのか、判断出来ず迷子のように視線をさ迷わせていた。
何とか懐の傷薬を彼に塗れないだろうか…。
締め上げられながらそんなことを考えていると、切迫した様子で男がまた一人暗い路地裏へ入ってきた。
「おい!何してる!!」
「都築さん!…孝一さんが!孝一さんがっ…」
都築と呼ばれた切れ者然とした男は、すぐに倒れた男に駆け寄ると何かを取り出し「3丁目 裏」と一言呟き、こちらに視線を向ける。
「その女は?」
「孝一さんに近付いてたから、締め上げました。」
「そうか……失礼ですが、貴女は?」
「名乗るほどのモノじゃないわ。それより、手を離してくれるかしら?力加減が心地好くて、眠ってしまいそうだわ。」
「んだと!テメェ!!」
「ヤメロ、宮田。……離してやれ。」
「いや、でも…都築さんっ…」
都築がジロリと視線で宮田を黙らせると、彼は納得いかない顔をしていたが、数秒後、しぶしぶ腕を下ろして私から離れていった。
私は懐の貝殻を取り出し、都築の方に投げつける。
暗闇の中でも、彼は見事にキャッチしてくれた。
「…これは?」
「その人の脇腹に塗ってあげなさい。…止血は出来ないけど、化膿は防げると思うわ。」
「ハッ!誰が得体の知れないやつのものなんて塗るかよ!」
「別に使わなくても構わないけど。死ぬ可能性を高めたいならね。」
「んだと!このアマ…」
「ヤメロ!」
ビリッと空気を揺らす怒号が響き、雨が地面に降りしきる音だけが静かに路地裏に落ちていた。
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