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濡れ鼠に渡された貝殻に入った怪しげな薬…効力は不明だし、むしろ薬と逆の可能性もあるだろう。
今まで表情の読めない女に、都築は出会ったことが無かった。
目の奥を探っても何の変化も無い…俺達がどういう人間か分かっていて啖呵を切っているのだとしたら相当な剛胆と言える。
女の言うように化膿が防げるのだとしても…毒の可能性もある以上、残念ながら信じて使うことは出来ない。
貝殻を閉じて投げ返そうと視線を下へ落とした瞬間、素早い動きで女は貝殻を奪い──こちらが動き出す前に、頭の腹に薬を塗りつけた。
「テメェ!何しやがる!!」
女を蹴ろうと勢い良く伸ばした宮田の足は、空を切る虚しい音をさせるばかりで彼女に届くことは無かった。
バカな…何だコイツは。
宮田は野生の勘が人一倍備わっていて、一対一の勝負に負けたことが無い──まして、相手は女だ。
ひらりとかわす身のこなしも、暗闇に浮かび上がる妖艶な笑みとその美しさも…全てが人間離れしている。
表に呼んでいた車が到着したらしく、恰幅の良い仲間達がこちらに向かってきた。
「お頭!!」
彼らはすぐ様、頭を車へ運んだ。
さて。このままで済ます訳にはいかないな…。
──カチャリ。
銃口を向けられてもふわりと微笑み、怯える様子の一切感じられない女に向かって、都築は重たい口を開いた。
「申し訳無いがこのまま一緒に来て頂きます……いいですね?」
「分かったわ。どうぞ。」
お頭を乗せた車を先に出発させ、俺と宮田と女も遅れて家へと向かった。
運転手は女の美しさに目を白黒させ、宮田は噛みつきそうな勢いで女を睨み付けている…女と俺だけが冷えた頭で、今の状況を捉えているようで、軽く舌打ちをして流れる景色に目を逸らした。
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