路地裏のネズミ

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 ◆◆◆  濡れ鼠に渡された貝殻に入った怪しげな薬…効力は不明だし、むしろ薬と逆の可能性もあるだろう。  今まで表情の読めない女に、都築は出会ったことが無かった。  目の奥を探っても何の変化も無い…俺達がどういう人間か分かっていて啖呵(たんか)を切っているのだとしたら相当な剛胆(ごうたん)と言える。  女の言うように化膿が防げるのだとしても…毒の可能性もある以上、残念ながら信じて使うことは出来ない。  貝殻を閉じて投げ返そうと視線を下へ落とした瞬間、素早い動きで女は貝殻を奪い──こちらが動き出す前に、(かしら)の腹に薬を塗りつけた。 「テメェ!何しやがる!!」  女を蹴ろうと勢い良く伸ばした宮田の足は、空を切る虚しい音をさせるばかりで彼女に届くことは無かった。  バカな…何だコイツは。  宮田は野生の勘が人一倍備わっていて、一対一の勝負に負けたことが無い──まして、相手は女だ。  ひらりとかわす身のこなしも、暗闇に浮かび上がる妖艶な笑みとその美しさも…全てが人間離れしている。  表に呼んでいた車が到着したらしく、恰幅の良い仲間達がこちらに向かってきた。 「お頭!!」  彼らはすぐ様、頭を車へ運んだ。  さて。このままで済ます訳にはいかないな…。 ──カチャリ。  銃口を向けられてもふわりと微笑み、怯える様子の一切感じられない女に向かって、都築は重たい口を開いた。 「申し訳無いがこのまま一緒に来て頂きます……いいですね?」 「分かったわ。どうぞ。」  お頭を乗せた車を先に出発させ、俺と宮田と女も遅れて家へと向かった。  運転手は女の美しさに目を白黒させ、宮田は噛みつきそうな勢いで女を睨み付けている…女と俺だけが冷えた頭で、今の状況を捉えているようで、軽く舌打ちをして流れる景色に目を逸らした。
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