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◆◆◆
──ズキン。
痛みで目覚めるのは、いつ以来だろう。
銃弾が掠めた脇腹を無意識に押さえながら、俺はゆっくりと目を開けた。
最近は防弾チョッキや身を守る道具も優秀で、そうそう傷を負うことも減っていたのに……やれやれだ。
天敵とも言える吾妻の顔が脳裏によぎり、打ち消すようにため息を吐く。
包帯がさらしのように腹部に巻かれ、少し動かしにくい上体を起こして酸素を取り込んでいると、外から声がかかった。
「お頭、失礼致します。」
「都築か。入れ。」
「はい。」
襖を開き、膳にお粥を乗せた都築が目の前まで来て膝を着いた。
いつもより疲れた表情を滲ませていて──こんな顔をした都築を見るのは珍しい。
「お加減はどうですか?」
「悪くない。面倒かけたな。」
お粥を頬張り咀嚼すると、体が温まってくる。
「すまない…俺が下手を打った。皆は無事か?」
「はい。こちらこそ、守りきれず…申し訳ありません。」
沈痛な顔で謝罪する都築を鼻で笑う。
「俺が向こうの出方を見誤ったせいだ。気にするな。」
「……はい。」
ペロリと飯を平らげた俺に、抗生物質と痛み止めの薬が手渡され、それらは水で流し込んだ。
手元を見つめ口をキュッと結んだ険しい雰囲気の都築が、硬い声で呟いた。
「お頭。倒れた時のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「ん?いや…出血が酷かったからな。途中から朦朧としていた。薄暗い路地に入った所までは覚えているが…」
「そうですか。……そこに居た女のことは?」
「女?…さぁな、居たような気もするが…何かあったのか?」
警察から逃げおおせた先で、誰かに会ったような気もするが霞がかった頭では思い出せそうにない。
「得体の知れない女が居たので…うちに連れて帰っております。」
「そうか。では後で連れてこい。拘束しているのか?」
「いえ、拘束はすぐに解かれてしまうので…出来ておりません。」
「ほぉ?それは確かに珍しい女だな。」
咎めたつもりは無かったが、力不足を感じたのか都築は少し顔を歪めて頭を下げた。
「では、後程伺います。」
「あぁ。少しだけ眠る。」
「承知しました。」
滅多に薬を服用しないせいか、すぐに眠気がやってくる。
珍しい女……か。
ふと、若くして亡くなった母の顔が浮かんできて──胸が酷く疼いた。
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