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秘書の仕事内容の説明を受けた私は呆然とした。
スケジュールは都築が管理しているので、基本的に私は『頭』からの呼び出しを待つだけだという。
暇な時間があるのは、今の私には苦痛だった。色々考えたり、思い出してしまうから…。
以前は『頭領』に仕え、彼の為に毎日屋敷の掃除をしたり食事を運んだり、身の回りの世話をしたり…他愛ない会話をしたり。
豪快に笑う屈託のない顔を思い出してしまい、大きな溜め息を吐いた。
「はぁ……。掃除でもさせてもらおうかしら。」
気分転換にもなるだろう。
襖を開けると、すぐ側に宮田が立っていた。
部屋から出てきた私を分かりやすく睨み付ける。
明るい茶色の髪の毛に、意思の強そうな大きな瞳、今にも噛み付いてきそうな彼は『頭』の忠実な番犬のようだ。…頭が良さそうには見えないのが残念な所だが。
都築のほうが冷静に話が出来そうだが、仕方ない。
「宮田さん、お屋敷の掃除をさせて欲しいのだけれど構わないかしら?」
声をかけると、ポカンと口を大きく開いた状態で彼は静止した。
首を傾げて見やると、彼は少し顔を赤らめ慌てふためく。
「ななな、何だ!突然主将な態度取りやがって!」
「主将じゃなくて、殊勝ね。」
「どっちでもいい!そそ、それより、掃除って何でだ?」
「暇なのは嫌だから。」
「……。」
そんなに可笑しなことを言ってるつもりは無いが、また宮田は口を開け固まってしまった。
やはり宮田では、埒が明かない。
「頭に聞いてみて下さる?」
ふわりと微笑んで見せると、宮田はボッと顔を赤らめた。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
照れ隠しなのかドスドスと足音を立てて去っていく後ろ姿が可笑しくて、その分かりやすさが微笑ましい。
数分して戻って来た彼の手には桶が握られていた。桶の中には雑巾やはたきが入っている。
許可がおりたとのことで、水道の場所や、掃除して良い場所の指示を聞き、早速自分の部屋から掃除を始めた。
水に浸した雑巾を固く絞って、床の間の木目をキレイに磨きあげる。
無心になれる掃除はいい。
廊下もピカピカに磨き上げ、掃除が終わる頃には日が傾いていた。
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