YouTubeの回

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シーン1 スタジオの中で主人公がスマホのカメラで撮影の準備をしている 立ち位置を確認したり場みったり、映り具合をチェックしたりしている 映像にナレーションが被る 主「世の中随分便利になったよな。オレが若い頃有名になるにはプロダクションのオーディションを受けたり、劇団のオーディションを受けたり…合格したとしてもプロダクションには何十万もの入所金を払い、月々のレッスン料を払いつつ、いつ訪れるかわからないデビューの日を待ちながら過ごしていた。 劇団に所属しても公演の度に一人あたりノルマがあって知り合いに頭を下げて高いチケットを買ってもらう…払えなかった分はもちろん自腹だ。 それが今じゃスマホ一つあれば動画サイトにアップして日本どころか世界中の人に自分の事をアピールする出来る。もちろんそれで生活していける人はほんの1握りだが、前に比べれば全然良い。 悪口を書き込まれたり、炎上したりはあるけど自分を表現して人に見てもらえるってことに比べれば、多少のリスク位なんてことない。」 撮影の準備が出来た主人公 撮影を開始しようと録画ボタンを押して場みった場所に立ち撮影を始める 主「皆さんごきげんよう…これじゃアサクラ…(笑)パクリみたいになってるじゃん…。」 タイトル挿入 「back beat」 シーン2 スタジオ・昼 折りたたみ椅子に座り考え込んでいる主人公 ノートに書いては消し、書いては消しを繰り返している そこへ生徒達が入ってくる ユリ、セイヤ、アヤ、サチコ ユリがリーダー格、それに並んで中性的な容姿のセイヤ、今どきのアヤ、このグループに不釣り合いな姿のサチコ ユリ「先生、何してるの?まだレッスン時間には早くない?」 主「今日からYouTuberデビューしようかと思って…」 ユリ「私たちと一緒じゃん!」 アヤ「ユリがプロダクションの公式チャンネルに上げる動画を撮れって、マネージャーに言われたの。」 セイヤ「オレ達はその手伝い。」 サチコ「セイヤ君も出たかったみたいだけど、動画に出るのはユリちゃんだけなんです…。」 ユリ「しょうがないじゃん、私可愛いし。」 得意げな表情のユリ セイヤ「はい、はい…」 サチコ「ユリちゃんは昔から可愛くてみんなの人気者だったの…」 アヤ「彼氏が出来たのもユリが一番最初だよね。」 主「これからデビューしようとしてる女優が元彼とかのことは言わない方がいいんじゃないの?」 ユリ「そうだけどさ…セイヤだってモテそうなのに彼女出来たことないよね。」 主「お前ら全員昔からの知り合いなの?」 ユリ「みんな幼なじみだよ」 主「プロダクションも同期で、幼なじみって、お前ら仲良いんだなぁ…」 セイヤが暗い表情を一瞬見せる 主人公はそれに気づく 主人公とセイヤ目と目が合い、セイヤはすぐいつもの明るい表情に戻る ユリ「だから、先生邪魔。」 主「はっ?!」 アヤ「私達これから撮影するから早く先生のどかして。」 主「オレも今から撮影するんだよ?HIPHOPチャンネルで、音楽やファッションやカルチャーを…」 言い終わる前に ユリ「可愛いレッスン生の為に先生が場所譲ってくれるってー」 アヤ「じゃあ準備しちゃおうー」 主「はい、はい、わかりましたよ。可愛い君達の為にお片付けしますよ。」 主人公はスマホやイスを片付けて出口に向かう スタジオの真ん中辺りで振り返りレッスン生達を見つめる セイヤと目が合う セイヤは軽く微笑みを浮かべて目礼する それに微笑み返しスタジオを後にする主人公 スタジオのドアの外 少し考え込む主人公 エレベーターが開いて他のレッスン生(小林)がスタジオに入ろうとする 小林「(爽やかに)おはようございます!もう入っても大丈夫ですか?」 主人公「おはよー!うん、中にセイヤ達も入ってるから!」 レッスン「今日も宜しくお願い致します!」 主人公「はいよー!」 スタジオの中へ入るレッスン生 主人公「あいつ、少し汗くさいな…」 階段を降りて行く主人公 シーン3 スタジオ 昼間 ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ床の上に座り話し込んでいる 話の内容は次の撮影について いいアイディアが浮かばないでいる そこへ主人公スタジオに入ってくる 主「おっ!?誰の悪口?オレ?社長?マネー…」 アヤ「違いますー!」 ユリ「次の動画の内容考えてるんだけど、良いアイディアが浮かばなくて…」 主「前はどんなの撮ったの?」 ユリ「私洋服とか好きだから、バイトしてるショップの新作を紹介したり、それを来てファッションショーみたいことしたんだ。ってか見てないの?」 主「あー…忙しかったからなぁ…」 ユリ「観てないんだよ、この人。」 主「そういう言い方すんなよ(笑)反響は?」 セイヤ「なかなかだったよ。コメントも結構きてたし。」 主「好きなレストランとか料理の紹介とかは?」 サチコ「ありきたり…ですね…」 主「お前、意外と言うね(笑)」 みんなにこやかに笑う 主「なんか良いのあるかなぁ…。」 他人事のように言ってスタジオの講師の席に座る主人公 その時ユリは鼻をクンクンさせる ユリ「思ってたけどさ、先生っていつもいい匂いするよね」 アヤ「私も思ってた」 主人公照れながら 主「そう?(笑)」 ユリ「私も香水好きで集めてるんだけど、先生は何使ってるの?」 アヤ「男の人の香水の匂いって苦手なんだけど、先生のはいい匂い」 主「だってさ、オレのは──」 主人公が言い終わる前に セイヤ「先生のは女性用でしょ?…フェラガモのインカントチャームだよ」 主「よくわかったな…オレも香水好きなんだけど、男の香水ってオヤジクサイ香りがして嫌なんだ。だからいつもグッチのラッシュ2とかフェラガモのインカントチャームとか女性用の好きな香りのフレグランスつけてるんだ」 アヤ「セイヤスゴーイ!」 セイヤ「オレも好きなんだ」 サチコ「女性用まで詳しいんだね。」 セイヤ聞き流す 主「ユリもセイヤも香水が好きなんだろ?じゃあ今度の企画はいつもつけてる香水とか好きな香水、そういうのを紹介する動画にしたらいいんじゃないの?」 ユリ「良いかも!香水の紹介の動画って見たことないね!」 セイヤ「じゃあそれにしようか?」 アヤ「いいね!」 アヤとサチコ笑顔で頷き合う 主「そんなに気を使わなくていいからな!」 ユリ「何の話?」 主「良いアイディアが浮かんだお礼なんて要らないからな!」 ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ顔を見合わせる ユリ「じゃあお礼に私とデートしよっか?」 主「えっ!生徒と講師はプライベートでうんたらかんたら…」 ユリ「ウソだよ(笑)」 主「知ってますー!まったく…」 外に出ようとする主人公 ユリ「どこいくの?」 主「レッスンの前に飲み物買ってくんの!」 笑いながら見送る四人 ドアを開けようとすると後ろから ユリ「先生!」 主「やっぱり禁断の恋がしたいのか?そういうのに憧れる年頃か?」 ユリ「違うの。デートはウソだけど二人きりで先生に話したいことあったのはホントだよ。」 主「どうした?」 ユリ「……ここじゃ…。」 主「…わかった。いつでも連絡してきな。」 ユリは頷いて、三人の元に戻っていく。 シーン4 スタジオ近くの公園 夕方 勾当台公園 帰宅しようと主人公は公園を横切ろうとしている コンビニの袋にビールが何本か入っていてニコニコしながら歩いている ふとベンチの方を見るとベンチにアヤが座っている ベンチに座るアヤに声をかける主人公 主「おい、何してんだ?」 アヤ「先生…動画のことで少し考えてたの。」 主「そういえばお前らさ、どういう役割分担で撮影してるの?」 アヤ「サチコが撮影したものを私が編集してアップロードするって感じ。」 主「じゃあ大変だな…オレも編集については詳しくないしな。」 アヤ「………」 主「編集のことで悩んでるのか?」 アヤ「違うの…この前ユリ、先生に何か話さなかった?」 主「話があるって言ってたな…仲間割れか?(笑)」 アヤ「もう!先生ってば…。」 主「冗談だよ、何かあったのか?」 アヤ「実はね…コメントのことなの。」 主「……。」 アヤ「先生は動画とか上げたことある?」 主「昔オレが出た映画とかドラマとか上がってるよ。」 アヤ「コメントきたりする?」 主「そりゃ多少はね。」 アヤ「私たちの動画にもコメントくるんだけど…ユリに対して誹謗中傷するような内容なんだ。」 主「でも多少そういうコメントはくるんじゃないのか?」 アヤ「普通のだったら別に気にしないよ…書いてある内容がさ、私達しか知らないようなことが書いてあるの…。」 主「どういう?」 アヤ「幼なじみにカメラ持たせてお姫様かよとか…」 主「動画を見た他の同級生だった奴らが書いたとかじゃないの?」 アヤ「それにね、撮影した日に現場で休憩してた時にタピオカ飲んでたの。それをユリがこぼしちゃって衣装にかかりそうになったの。」 主「それで?」 アヤ「撮影前だからってサチコと私で掃除したんだけど…そのことも書いてあって…自分でこぼしといて幼なじみに掃除させてって…たいして可愛くもないくせにって。」 主「そこの現場には他にはいなかったの?」 アヤ「私とサチコとユリだけ。」 主「セイヤは?」 アヤ「その日は友達と用事があったみたいで少し遅れて現場に来たんだ。」 主「じゃあサチコが書いたってこと?」 アヤ「サチコだけじゃなく、私も疑われてる。」 主「なんでお前とサチコが?」 アヤ「先生はわかるかな…?同じ悪口でも男が書いた悪口と女が書いた悪口って何となく違うの。」 主「女の感?」 アヤ「なんかね、わかるの。今回のは絶対女が書いてるの。」 主「お前たちが幼なじみって知っていて、更に撮影現場の出来事も知ってる人間でしかも女ってことか…。」 アヤ「折角チャンネル登録してくれたり、楽しみにしてるってコメントもあるんだけど、もう止めたいなぁって。」 主「勿体ないよ、続けなきゃ。オレに出来る事があれば協力するし、何か気づいたことあったらすぐ連絡するから。」 アヤ「ありがとう、先生。」 主「演技を教えるだけじゃなく、こういうのも先生の役割だろ(笑)」 アヤ「話したら落ち着いたし、そろそろ帰ろうかな(笑)」 主「もう遅いから気をつけて帰れよ!」 手を振り帰っていくアヤ その後ろ姿を見つめる主人公 シーン5 スタジオ 昼 主人公がスタジオのドアを開けて中に入ると ユリの怒鳴り声が聞こえる ユリの手にはカッターやハサミの様なもので切られボロボロになった撮影の衣装 ユリ「一体なんなの?」 サチコ「私じゃない…。」 ユリ「アヤどういうつもり?」 アヤ「私も知らないよ。」 ユリ「ここに衣装が置いてあるのは私達しか知らないんだよ?みんな知らないなら誰がやったっていうの?」 アヤ、サチコ黙って破かれた衣装を見つめている。 そこへ主人公がやってくる 主「何を大きな声だしてるんだ?」 アヤはすがるような目で主人公を見つめている ユリ「先生…衣装が…」 主人公はボロボロになった衣装を見る サチコ「私たちじゃないんです。」 アヤ「先生…。」 ユリ「ここに衣装が置いてあったのは内部の人しか知らないんだよ。」 主人公はユリを優しく諭すように 主「この中の誰がやったって決まった訳じゃないだろ?外部の人間や変質者の仕業かもしれない。」 ユリ「なんで私の衣装だけ?なんで私達のだけが荒らされるの?」 主「この件はプロダクションには報告せずに、オレに預けてくれないか?オレも今日から見回りや戸締りをきちんとしておくから。」 ユリ「こんなんじゃ、撮影なんて出来ないよ!」 主「結論を出す前に…変わったことや気づいたことがあったらオレが報告するから。オレなりに犯人を調べてみるから。ユリ、結論を出すのはその後にしてくれないか?」 ユリ「……。」 アヤ「ユリ…私達じゃないよ?」 ユリは返事をしない アヤはスタジオを出ていく ユリはそれを見向きもしない サチコは立ち去るアヤの方を見つめて、ユリを見て何かを言おうとするが止めてスタジオを出ていく ユリは衣装を手に持ったまま、下を向き涙を流す シーン6 スタジオビル内の階段 戸締りと見回りの為の主人公は鍵を持って階段を登っていく ドアを開けると真っ暗なはずがすりガラスの向こう、控え室だけ灯りがついている 主人公は犯人を見つけたとばかりに静かにドアを閉めて、そうっと中にはいる シュッシュッというような音が聞こえてくる 主「何の音だろう?」 シュッシュッという音はまだ続いている そうっと控え室を覗くとそこにはサチコが衣装を持って立っている 主「サチコ。」 驚くサチコ サチコ「先生…」 主「こんな時間に何やってるんだ?驚いたよ(笑)」 サチコ「……ユリちゃんは香水が好きなの。良い香りがするとテンションが上がるって…だから私ユリちゃんの衣装をしまう前や撮影前は必ずこれをしてたの。」 手にはスプレータイプの消臭剤のスプレー にこやかな顔でサチコを見る主人公 主「そっか。」 サチコ「昼間はあんな事になっちゃったけど、また撮影再開するはずだし私はユリちゃんを綺麗に撮ってあげたいから。」 主「サチコが、カメラマンだもんな。」 サチコ「私昔からユリちゃんに憧れてたの…私ねずっとイジメにあってて…でも修学旅行でたまたまユリちゃんと同じ班になって話すようになってからイジメられなくなったの…きっとユリちゃんが庇ってくれてたんだと思う…私は可愛くないしユリちゃんみたいにはなれない…毎日学校が楽しくなるっていう夢をユリちゃんが叶えてくれたみたいにユリちゃんの夢の…有名になりたいっていうユリちゃんを夢を支えることが今の私の夢なの。」 レッスンで見せたことも無い笑顔を見せるサチコ 主「じゃあオレが何とかしないとな(笑)」 頷くサチコ 主「そういえば、セイヤは最近見ないな?アヤの話だとタピオカの時も遅れてきたんだろ?やる気ねぇのかな?」 サチコ「………先生、その日ユリちゃんもアヤもセイヤ君遅れて来たと思ってるけど違うの…私見たのセイヤ君のこと。」 主「えっ?」 サチコ「タピオカこぼした時に掃除しなきゃって思って、女子トイレからトイレットペーパーを借りて戻ってきた時に…ユリちゃんを見てるセイヤ君を見つけたの…。」 主「それで?」 サチコ「私には気づいてなかった、セイヤ君焦ってるぽかったから。遅れたから急いで来たとかじゃなくて、逃げて来たみたいな…それから暫くして遅れてゴメンって来たの。」 考え込む主人公 シーン2の時のセイヤの暗い表情がフラッシュバックする 主「その事は誰にも言わないでてくれるか?」 サチコ「言わないよ、誰にも。だから先生も今日私がしてたこと誰にも言わないでね。」 主「もちろん(笑)」 主人公は黙って頷く サチコ「先生…私たちを助けてね…。」 主「生徒を守るのは当たり前だろ。」 サチコ「ありがとう。」 主「遅くならないうちに片付けて帰るんだぞ。」 サチコは頷きながら嬉しそうな様子で丁寧に丁寧にハンガーに衣装をかけて、丁寧に丁寧にたたんで片付けていく サチコの姿を同じく嬉しそうな様子で見守る主人公 シーン6 仙台市内 広瀬川沿いで考え込む主人公 ため息をつく 主「とは言ったものの…全然わかんねぇな…」 川沿いを歩く 仙台市内の市街地を歩く シーン7 仙台市街地 晩翠通り辺り 主人公、通りの向こうを歩くセイヤに気づく セイヤは主人公に気づいていない 主「セイヤだ…バイトかな?ちょっと驚かしてみるか(笑)」 セイヤの後を付ける主人公 セイヤはとあるビルに入っていく 主「なんの用事があってこのビルに入ったんだろう…」 中に入ろうとすると、勢いよくビルの中から出てくる大柄な(女性?) ぶつかりそうになり、避ける主人公 (女性?)頭を下げて足早に立ち去る (女性?)の後ろ姿を呆然と見送る主人公 主「…仙台も自由な風が吹いてきてるな…。色んな人がいるよ(笑)」 クンクンする主人公、自分のワキの下の匂いも嗅いでみる 主「あの人…運動の後かな?」 主人公後ろから肩を叩かれる 男A「お兄さん、何かようなの?」 主「いや、別に…」 男B「ちょっとさー、こっちに来てくれる?」 主「えっ!」 抵抗するも男二人に連れていかれる主人公 男「いいからこっち来いよ!」 男二人に挟まれる形で連れて行かれる主人公 シーン8 仙台市内のどこかの駐車場 男A「あんたなんの用事があってあそこに来たの?」 男B「誰かの後をつけてきたよな?」 主「いちいちあんたらに言う必要あんの?」 男A「こいつストーカーのくせにいい度胸してんな。」 主「誰がストーカーだ、この野郎。」 男B「ちょっと痛い目に合わせるか?」 舌打ちする主人公 そこへ後ろから声がかかる ヒロ「その人には手を出さない方が良いんじゃないか?」 主人公振り向く 主「おまえ…」 ヒロ「久しぶり、おにぃ。」 ヒロ笑顔で微笑む 隣には大輔 ヒロは背が高くモデルのような出で立ち 大輔はヒロより背が低いがヒロより力強そう 二人とも高級そうなスーツ姿 だがサラリーマンの様な雰囲気ではない だがホストほど下品な感じでもない 大輔「ご無沙汰してます。」 主「大輔も…お前らどうして。」 ヒロ「ウチのビルの下で絡まれてる人がいるからさ(笑)」 大輔「ヒロさんもお兄さんだと気づいてたみたいなんですが…苦笑」 ヒロ「短気なおにぃがどんな対応すんのか興味があって(笑)」 主「相変わらずだな、お前らは(笑)」 男A「じゃあこの方はヒロさんの…」 大輔「ああ、ヒロさんのお兄さんだ…お前ら良かったな手出さなくて…お兄さんキレたら怖いからな。」 主「オレは心の広い優しい人間だから!」 大輔「でもチッって言ってましたよね(笑)」 主「だってさぁ」 ヒロ「そういうことだから、お前ら行って良いぞ。」 男A、B主人公に謝りながら駆け足で逃げていく。 大輔「でも、なんであんなとこにいたんですか?」 ヒロ「こっちに戻ってきたのは知ってたけど、今はプロダクションか何かで演技教えてるって。」 主「オレの教え子が、あのビルに入って行ったから…あんな雑居ビルになんの用かと思ってさ。」 ヒロ「ふーん……ここじゃなんだから場所変えるか。」 大輔「はい、車出します。」 シーン9 亘理 鳥の海 夜 ポツポツとライトがついている ヒロ「まさか、あんなとこでおにぃに会うとは思わなかったよ。」 主「オレもだよ…で、あのビルは何なんだ?」 ヒロ「オヤジが持ってるビルでさ…。」 主「あぁ…。」 ヒロ「オレはあそこの管理を任されてるんだけど、出会いカフェっていうか、散歩カフェっていうか…わかるかな?」 主「わかるよ。」 ヒロ「それの男の子版ってこと。」 主「それって…」 大輔「普通は女の子がお客さんを待つんだけど、あそこでは男の子がお客さんを待ってるんです。」 主「じゃあ客は女ってこと?」 大輔「いえ、男性です。」 主「男の子を男の客がお金払って連れ出すってこと?」 大輔「そうなります。」 主「…。」 大輔「LGBTってご存知ですか?」 主「わかるよ。」 ヒロ「今はそういうことに対してオープンになってきてるでしょ。オレはそういう差別は好きじゃないし、そういうお店があっても良いと思って作ってみたんだ。もちろんイリーガルな面も含めてだけどさ。」 主「じゃあお客は気に入った子がいたら連れ出して?」 大輔「そこから先は自由恋愛になります。その先でどんなやり取りをしたとしても自由ですし、店側はキックバックを受け取ることはありません。」 ヒロ「とは言ってもさ、大っぴらには出来ないでしょ?だからオレらがそういう場を作って管理してるってこと。」 大輔「中にはタチの悪い奴もいるので…付きまとったり、バラすぞと脅かして無理矢理関係を続けさせたり…。」 ヒロ「そういう時はオレらが出ていって、二度と脅したりする気が起きないようにするのさ。今日おにぃがあいつらに声かけられたのも、付きまとったりしてる奴じゃないかって勘違いされたってことだね。」 主「トラブルはよくあるのか?」 ヒロ「しょっちゅうだよ。」 大輔「さっき車の中で伺った、その男の子ですが…。」 主「あいつがどうかしたのか?」 大輔「つい最近も付きまとわれて困ってると店に報告が入ってます。」 ヒロ「今日のミーティングでも、そいつ痛めつけてやろうかって言ったばかりなんだ。」 主「………。」 ヒロ「怖い顔になってるけど、どうかしたの?」 主「いや、何でもない。忙しいのに悪かったな。」 ヒロ「おにぃが我慢してくれたお陰でオレは何の苦労もなく育ってこれたんだ…兄弟だろ?何かあったらいつでも言ってくれよ。」 大輔「お兄さんの為なら何でもやりますよ。」 主「……悪いな。」 シーン10 ビルの前 夜 ビルから出てくるセイヤ 声をかける主人公 主「おい、セイヤ。」 振り返るセイヤ セイヤ「先生」 微笑む主人公 主「少し付き合ってくれよ。」 頷くセイヤ シーン11 夜 勾当台公園 セイヤ「何でボクがあそこにいるの知ってたの?」 主「あのビルな…オレの弟が仕切ってるんだ。」 セイヤ「えっ!…でもオーナーとは名字が…」 主「異父兄弟っていうのかな…お袋が再婚して弟が生まれたんだ。」 セイヤ頷く セイヤ「じゃあボクがあそこで何してるかも?」 主「聞いたよ。」 セイヤ「ウリしてるわけじゃないんだよ!いい出会いがあれば良いなって思って…ボクこんなだから…気持ち悪いって思った?」 主「そんなに自分のこと悪く言うことないだろ?」 優しく微笑む教師 主「気持ち悪いなんて思いもしなかったよ。」 セイヤ「何で?」 主「だって、それがお前なんだろ?」 セイヤ「でもさ…。」 主「それも含めてお前だろ?気持ち悪いも何もないじゃん。セイヤはセイヤだろ?」 セイヤ「先生は嘘つかないんだね。」 主「何が?」 セイヤ「普段のレッスンで言うじゃん。本当の自分を出せって。」 微笑む主人公 セイヤ「嘘をつくのが役者じゃない。自分の感情や衝動に正直になるのが役者だって。」 主「そうだよ、よく覚えてるじゃん。」 セイヤ「…」 主「ありのままで良いと思うぜ。」 セイヤ「うん。」 主「でもいくら嫉妬したからって、悪口書き込んだり、衣装破いたりは良くないぜ。」 セイヤ「えっ?嫉妬って?」 主「同性としてユリに嫉妬したんじゃないの?」 セイヤ「何言ってんの、先生。ボクは男性が好きな男性だよ。」 主「えっ?身体は男性だけど、心が女性ってわけじゃないの?」 セイヤ「違うよ。身体は男性だし、心も男性だけど、男性が好きなの。だからユリに嫉妬なんかしないよ。あいつ幼なじみだよ?心から応援してるし、良きライバルだよ。」 主「じゃあ、だれが…。」 考え込む主人公 セイヤ「先生、実は…。」 主「あっ、そういえばお前誰かに付きまとわれてるって聞いたぞ。」 セイヤ「ボク、お店でお客さんを待ってたんだ…そしたら…。」 回想シーン 店内 如何わしい雰囲気はなく普通の待合室のように見える セイヤは雑誌をパラパラめくっている ボーイ「ヒカル君、ご指名です。」 セイヤ「はーい。」 店内 別室 ネカフェのペアシートの様な狭い部屋 セイヤがドアを開けて入ると セイヤ「失礼しまーす。」 セイヤはお客さんを見てフリーズする お客「まさか、こんなとこでセイヤ君に会えるなんて思ってなかったわ。」 下を向き俯くセイヤ セイヤ「…」 お客「前からセイヤ君のこと気に入ってたんだぁー。」 セイヤ「本名で呼ぶのやめてくれよ。」 お客「ごめんなさい、ここではヒカル君ですもんね…うれしー運命の出会いね」 セイヤは顔を上げてお客を見据える セイヤ「小林くんがなんで…。」 そこには女装した小林が満面の笑みを浮かべて座っている。 回想シーンの小林の画面に被せて 主「小林が!?」 回想シーンあける セイヤ「うん。それからボクが入っている時は必ず来るようになって…しつこいんだ、あの人。」 主「…。」 セイヤ「付き合わないとバラすぞとか脅されてるうちにズルズル…。あいつ女装する時いつも同じウィッグ被ってるから汗臭いんだ…。」 主「それで、あいついつもスポーツした後みたいな匂いするんだな!?」 セイヤ「ボク、ユリ達と動画やってるでしょ?それにヤキモチなのか何なのかわからないけど、ユリの事をブスとか悪く言ったり、あんな女達とは付き合うなとか、撮影にも後をつけてきたり…。」 主「じゃあもしかして悪口書き込んだり、衣装に嫌がらせしてるのは…。」 セイヤ「あいつだと思う…だから撮影に行ったらユリ達に迷惑がかかると思って…。」 主「それは違うよ。ユリもアヤもサチコもお前を待ってると思うよ。」 セイヤ「…。」 主「ユリは今、疑心暗鬼になって誰も信じられないでいる。アヤは自分がこれから制作に進むのかどうか迷ってる。サチコはユリの夢を叶えたいと影であのチームを支えてる…お前にも出来ることがあるんじゃないか?」 セイヤ「こんなボクでも?」 主「こんなってなんだよ。お前らは幼なじみで、同期で、それぞれ夢を叶えようと努力してる仲間だろ?どんなお前だって受け入れてくれるさ。」 セイヤ「…」 主「確かにな、ここは田舎だから偏見の目を持ってくる古臭い人間もいるかもしれないよ?けどさ、仲間を信用してみろよ。」 セイヤ「信用?」 主「こんな自分って自分を悪く言うのは、心の中で自分に自信を持てないでいるからだ。こんな自分じゃダメだって。そうじゃないよ。どんなことがあろうとセイヤはセイヤだろ?男が好きでも女が好きでも同性愛者でも、なんであってもセイヤはセイヤじゃないか!?もっと自分を信用してやれよ。そしてそういうお前と子供の時からずっと一緒にやってきたあいつらを信用してやれよ。」 セイヤ「先生…」 主「きっと、あいつらは受け入れてくれると思うぜ。」 涙を浮かべるセイヤ 主「苦しかったな…でもな…泣くんじゃねぇーよ」 笑顔でセイヤの頭に手をのせる主人公 シーン12 夜 仙台市街地を歩いている主人公 歩きながらスマホで電話をかける 主「もしもし、オレ。ちょっと頼めるかな?──そう、その付き纏ってる男のことで─」 悪い顔をしている主人公 主「よろしく頼む。」 スマホを切り、足早に歩いていく シーン13 夜 仙台市街地 ビルの前 セイヤは入ろうか立ち止まって迷っている 中に入ろうとした時にセイヤは声をかけられる ビクッとするセイヤ ヒロ「ヒカル…いや、セイヤって呼んだ方が良いかな。」 優しく笑うヒロ セイヤ「オーナー…」 ヒロ「飯は食ったのか?ちょっと付き合えよ。」 歩き出すヒロ ついて行くセイヤ 仙台市街地を歩きながら ヒロ「お前、タレントとか?アーティストとかそういうのになりたいんだってな。」 セイヤ「…。」 ヒロ「お前はもううちには来るな。お前は表舞台で光を浴びたい人間だ。そんな奴が来るとこじゃない。」 セイヤ「でも、ボク…」 立ち止まるセイヤ ヒロは振り返り ヒロ「仙台はまだ田舎だよな…お前達みたいな奴らを理解出来ないでいる古い考え方の人間の方が多い…オレらと何も変わらない人間なのにな。」 セイヤ「…。」 ヒロ「有名人になるって夢があるなら、ウチみたいな店でこそこそするんじゃなくて、お前と同じ悩みや苦しみを持った人達が海外だろうと、東京だろうと、仙台だろうと、堂々と胸をはって主張していける…そういう社会に変えていくっていう役目があるんじゃないのか?」 セイヤ「有名人として…。」 ヒロ「そうだよ。ただ漠然とカッコイイでしょ?可愛いでしょ?じゃなくて、人に何かを伝えていく、人に何かを与えていく、それが俳優やタレントや有名人の役目なんじゃないのか?」 セイヤ「…オーナー。」 ヒロ「今はネットなら誰でも匿名で好き勝手なことをほざける世の中だ。人に後ろ指を指される様なマネはするな。向こう脛に傷のある人間になるな。光の差す表舞台を堂々と歩いて、人に何かを与えられる人間になれよ…」 頷くセイヤ ヒロ「まあ、全部アニキの受け売りなんだけどな(笑)」 笑うセイヤ ヒロ「困ったことがあったらいつでも連絡してこい。」 セイヤ「はい。」 ヒロ「お前が有名になるの楽しみにしてるよ。」 セイヤの肩を叩いて歩き去っていくヒロ その後ろ姿をずっと見つめているセイヤ シーン14 スタジオ 昼間 レッスンの前 主人公はいつもの席に座りなにか書類を書きながら、レッスン生達の様子を見ている セイヤ、ユリ、アヤ、サチコが四人で楽しそうに雑談している 他のレッスン生達もいる ナレーション挿入 主「それからセイヤは自分自身の気持ちやこれまでの悩みをユリ、アヤ、サチコに伝えたみたいだ…これまでたくさんの時間を共に過ごし、同じ夢を見てきた仲間の絆は簡単に壊れるものではなかった。むしろ四人が四人とも正直な思いをぶつけ合い、さらに絆は深まったようにオレには見える。 これからはたくさん面白い動画をあげて、視聴者を楽しませていくんじゃないかな。 ……セイヤに付き纏っていたあの小林ってレッスン生は──」 回想シーン挿入 店内でセイヤを指名する小林 小林「ヒカル君お願いします。」 ニヤニヤしている小林 店員「一番奥の部屋でお待ちください。」 いつもの様に室内へ向かう小林 個室内 座ってセイヤが来るのを待つ小林 すると大輔他ガラの悪い男たちが室内へズカズカ入ってくる 小林「一体──。」 大輔は小林の髪の毛を掴み、ポケットからナイフを取り出し小林の鼻に先を入れる 大輔「お前は喋るな。いいか?」 頷く小林 部下は上着から免許証を出す 部下「免許証がありました。」 大輔「写真を撮れ。裏もだ。」 怯えている小林 大輔「何故こうなってるか、わかるか?今後二度とあいつに近づくな。誰の事を言ってるかわかるな?」 頷く小林 大輔「もしまた付き纏ったり、ネットに悪口を書き込んだりしたら…どうなるかわかるな?」 頷く小林 大輔「オレたちはどこまでも追いかけるぞ?どこまで逃げても必ず見つけ出す。仙台だろうが、東京だろうが、沖縄だろうが関係ない。必ず追いかけてお前を見つけ出す。」 唾を飲み込む小林 大輔「理解したら返事をしろ。」 小林「はい。」 目で部下に合図を送ると一枚の書類を小林の前に置く 大輔「名前を書いてハンコを押せ。」 小林「印鑑が…」 大輔「拇印でいい。書いたら出ていけ。」 急いで書いて出ていこうとする小林 部屋を出る所で大輔は呼び止める 大輔「おい…二度とオレと顔を会わすなよ…。」 小林「はい!」 部屋を出ていく小林 シーンは先程のレッスンスタジオの続き 四人は楽しそうになにか話している ナレーション再開 主「あいつは二度と顔を出さなくなった。人を脅したりゆすったりする卑怯な人間なんていざ自分が同じ立場になったらすぐ逃げていく…そんなもんだ。」 セイヤ「でもさ、先生の弟さんカッコイイんだよねー」 笑顔で主人公を見るセイヤ 主「まーさーかー…」 笑い合う講師と生徒たち ユリ「ところで、先生の動画の番組名決まったの?」 主「あぁ…それか…お前らも出るか?コラボするか?」 アヤ「初回から?」 主「いいの、いいの!」 シーン15 スタジオ内 カメラの前でもう少し右などと立ち位置の指示を出す主人公 セットしてカメラの前に立つ 主人公の後ろには右からセイヤ、ユリ、アヤ、サチコが並んでいる 主人公はカメラに向かいカッコつけながら 主「皆さんはじめまして!荏原です。『backbeat!』のお時間です。」 画面は制止 Backbeat end
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