ミミミの耳

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 「野口、パン半分食ってくれない?」  給食の時間、ほとんど毎日、隣の席の登藤(とどう) (けん) に言われた。  「いいよー。」  いつも私はそう答えると、登藤のパンを半分受け取り、2口でたいらげる。  「登藤さぁ、ちゃんと食べないから、背が低いんじゃない?」  登藤は、クラスで学年で1番背が低い。それでいて、気が強い。  「僕、ホントはたくさん食べるんだよ。こないだもステーキ500グラム食べきったもん。」  小学生の給食で、コッペパンを半分しか食べられないのに、ステーキ500グラムなんて食べられるはずがない。  登藤は、負けず嫌い。それが如実に現れるのは体育の時間だ。かけっこでもなんでも、すぐに張り合おうとする。  しかし、体育は、生まれもった運動神経と体格がものを言う。登藤の身長は学年別の平均身長でいえば、2年生と3年生の間。その上、運動神経はやや悪い。  傍目に見ればは、小2が小5に全力で挑んで、ジタバタしているようなもので滑稽なのだ。  そんな登藤は、いつもクラスの男子の中ではいじられ役だった。秋頃にはそれが徐々にエスカレートし、「ふざけあっている」では納まらない光景もしばしば起こるようになった。  それと比例するように、登藤は日に日に暗くなっていった。
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