ミミミの耳

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 午前中で学校が終わったある土曜日、お母さんと昼食に出掛けた。行き先は、ホテルのレストランバイキング。私は、先数ヵ月分のご馳走をタラフク食べる覚悟で気合いを入れていた。  ホテルの前で数人の女性が立ち話をしている。一人がこちらに気付くと、笑顔で手を振ってきた。  「野口さん、こっち。」  そこで私は目を疑った。ママさんバレーの仲間5人での食事会とは聞いていた。遠目には、低学年の男の子かと思ったのだが、登藤だ。まさかクラスメイトがいるとは思いもしなかった。登藤のお母さんも同じチームでバレーをしていると、その時初めて知った。  しかし、登藤がこの場にいること以上に驚いたのは、その食べっぷりだ。絵本の中でしか見たことがないほど山盛りに盛り付けた料理を、あっという間にたいらげる。カレーライスでもパスタでもなく、山盛りの唐揚げを飲み物のように食べる人を、私は初めて見た。  「女の子なのによく食べるね。」  大人と一緒に食事の時、必ず言われるはずのその言葉を、その日は誰からも言われなかった。    それともう一つ意外だったのは、登藤が明るくて元気で良い子なこと。少し前の強気な登藤とも、今の暗い登藤とも全く別人に見えた。  お母さんと登藤のお母さんとは、ママさんバレーチーム内でも今まではあまり話すことがなかったそうだ。この日以来、お互いに子供もクラスメイトってことで仲良くなった。
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