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「美弥、お母さん似でごめんね。」
幼い頃、お母さんからよく言われた言葉。以前は気にもとめていなかった。
『口』というあだ名をつけられても、野口という名字と美弥という名前からだと、あまり気にしていなかった。
そう、あの日までは。
トイレの花子さん、人面犬、てけてけなど、子供が食い付く都市伝説がある。その一つ、口裂け女。
2学期の終わり頃、突然クラスで口裂け女の話題がブームになった。
きっかけは、そういった話題が大好きな、クラスの男子が持ってきた都市伝説特集の本。そこには、水墨画で描かれたおどろおどろしい口裂け女の絵が掲載されていた。
水墨画の左下端には、作者の名前が書かれている。その口裂け女の作者、下の名前は小学生には読めない字だった。しかし、名字ははっきりと読める。
『野口』
水墨画の左下端に書かれた名前が、作者の名前であることは小学生でも知っている。それに、『野口』なんてありきたりでどこにでもいる。
しかし、同級生を率先してからかったりするような小学生の男子に、理屈や常識なんて関係ない。瞬間的に思い付いたインパクトのあることを、相手の気持ちも考えずに実行する。
「野口のデカ口、美弥まである口裂け女。」
一人の男子がそう叫ぶと、クラスじゅうに汚い笑いが広がる。私を「口裂け女」と、笑いながら呼ぶ男子があっという間に増える。
日に日に、笑いながら「口裂け女」と私を呼ぶ男子は減る。数日するといなくなった。
笑わずに、「口裂け女」と呼ばれるのが当たり前になってしまったのだ。
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