ミミミの耳

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 すぐに、フヌケさんから返事が届いた。そこから、私は動画の作成について色々教わった。教わったというより、背中を押してもらったと言った方が正しい。  女性配信者は男性リスナーを取りやすいからasmrがお勧めということだ。既に配信者にはアニメ声の女性がたくさんいる。そんな中に、私のようなアニメ声ではない人間が配信したってと思ったが、フヌケさんは逆にそれだからいいと言ってくれた。  スマホを立てて固定する。両面テープで張り付けたりと大変だった。まずは練習のつもりで、チャンネル開設の挨拶を収録する。顔を出したくないので、ぎりぎり映らないような位置にスマホを固定したはずだったが、しゃべっているうちに時々、口元が映ってしまう。念の為、マスクを着用した。  再生してみると、こんなものをネットで拡散したら一生の恥だと思うような出来の悪さだ。何度も取り直したが、どうしても恥ずかしくないものは撮れない。  でも、フヌケさんが言うには、最初は誰でもそうなんだそうだ。むしろ、それが初々しさでもあり、そこからの成長過程を見守りたいというリスナーが付くからと言われた。  翌日、午前中から電気街へ出かける。社会人になってから、週末に朝からでかけるのは初めてかもしれない。スマホのスタンド、スマホとつなぐマイクなどを購入。高価なものは買えないが、それでも左右の耳に音が立体的に聞こえるように録音できる二股になっているマイクだ。  帰りの電車の中、ゲームソフトを発売日に購入した少年のように、私はわくわくしていた。  帰宅するなり、すぐにスマホをセッティング。昨日練習したものを取り直す。機材を購入した高揚感なのか、昨日練習したからなのか、恥ずかしさは減っていた。  収録を終えると、フヌケさんから教わった動画編集アプリで文字やスタンプなどを挿入する。たった3分ほどの動画だが、出来上がったのは夕方だった。  動画をチャンネルにアップし、すぐにフヌケさんへウィスッパーで報告をした。  数分後、動画に初の いいね が押された。直後にウィスッパーでフヌケさんから動画の感想が届いた。それはもうべた褒めで。  気をよくした私は、その日以降、仕事の後や休日を動画作成に費やすようになった。  最初はマイク相手に話すだけだったが、すぐにしゃべる内容のネタが切れた。素人には、ラジオDJのような軽快なトークを毎日続けるのは難しいと気づかされた。  すると、話すことが無くなった穴を、音で埋めようとする。マイクを指先でコツコツとタップしたり、なでたりする。フ~と、息を吹きかけみたところ、視聴数は変わらないのに いいね の数が増えた。  いいねの数が増えると、徐々に視聴数の増加率が高くなっていく。すると、マイクが吐息を拾うような話し方をするようになり、より高性能なマイクがほしくなる。  新しいマイクを買うと、動画収録のやる気が上がり、すると視聴数やいいねがさらに伸びた。その繰り返しで、私の動画は1年少々で初の収益化を迎えた。
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