画家に見出された不細工女

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 顔立ちが悪い上に肌がニキビまるけ。貴子は容貌が酷い女だった。おまけにケチだから肌に良いとされる食べ物や飲み物やサプリメントやファンデーションや化粧水といった物は決して買わない。だから肌ケアをしようとしない。況してマスカラなんか塗らないから、「女はマスカラ塗るだけで女子力アップして全然可愛くなっちゃうから得だわね」と言って実際にマスカラ塗っていい気になっている女を見ると、貴子は尋常でなくむかつく。第一マスカラなんてとても面倒でアイラッシュカーラーだのマスカラコームだのアプリケータだの態々買って来ないといけないし、それらを使いながらマスカラを苦労して塗って睫毛を長く見せたり太く見せたりカールさせたりしたところでどうなるって言うの!ベースが良ければ、いざ知らずと一理あるも怠け者であるが故にこんな考えに落ち着くのだ。だから綺麗になったねなんて言われっこない。  そんな装飾や美とは縁がない彼女が或る日曜日、柄にもなくちょっと洒落てカフェテラスでエスプレッソを味わっていると、信じられないことに男に声をかけられた。 「探してたんだ!君みたいな子を!」  貴子はまさか自分の事?と耳を疑って男を見ると、彼がニコッと笑って言った。 「君、モデルにならないですか!」 「えっ?!」 「僕はこういう者です。」と男は言って名刺を差し出した。  貴子は受け取って見ると、画家高橋順平とあった。彼女はファッションに疎ければ芸術にも疎いから聞いたこともない名前だった。そんな彼女に高橋は言った。 「僕はキュビズムに嵌ってしまいましてね。キュビズムから抜け出せなくなったんですよ。で、困ったことに正当な美人画を描けなくなったんですが、この頃、何やら無性にそれを描いてみたい気になりましてね。そんな折にあなたに出会えたのはこの上ない幸運なことです。」  何のことやらさっぱり分からず、私はお世辞を言われてるのだろうか?それにしては真に迫ってると貴子は妙な気分になってきょとんとした。
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