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「……可愛い」
「そういうこと言わないで……」
「なんで。俺は言いたい」
「ゔっ」
もう本当にやめてほしい。
言葉で心臓を止められるんじゃないかって気すらしてくる。
顔を逸らすけれど、頬を軽く掴んで元の向きに戻され、また少しこちらへ乗り出した孝弘の影が私に落ちる。
距離を取ろうとすると、ただでさえ半分寝転がっているような体勢だったのがさらに倒れて――まるで押し倒されているみたいな格好になってしまった。
「彩香」
「はい」
「高待遇なセフレ扱いだと思われてたのが地味にショックだから、しっかり訂正しておくけど」
「ゔっ……、はい」
「俺も、飲んでる時から彩香のこと気になってた」
「えっ」
全然そんな素振りはなかったと思うんだけど……。
いや、でも直緒さんがいなくなったあと隣に来るように促されて1時間くらいはお喋りしてたし、興味のない人間とはそんなことしないか。
「ほぼ毎週バーにいるって言うから、次会った時に連絡先交換しようと思ってた。だから、あの時点で手を出すつもりはなかったんだけど……あんなこと言われて、色々吹っ飛んだな」
熱を帯びた目で見つめられ、私の体温もじわじわ上昇していくような錯覚に陥る。
「それに……俺も、我慢できなかったから。据え膳をいいことに、遠慮なく食った」
唇からちろりと赤い舌が覗いて、ぞくっと身体が震える。
「指輪を置いていったのは、あの時点でだいぶ本気だったから」
――孝弘のトレードマークの指輪。
直緒さんと隼さんが言っていた。高校時代から付けているもので、付き合いが長いLIBRAのメンバーですら、外したところをほとんど見たことがないと。
そんなものを初対面の女の家に置いていくなよ……と思ったけれど、そこには相応の思いが込められていたらしい。
「2回目に会った時、やっぱり彩香はいいなと思って」
「…………」
「俺の家でゆっくり2人で過ごしてみて、間違いないって確信した。それに、彩香も同じ気持ちじゃないかと思ったから、本気で付き合いたいって伝えた」
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