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軽く触れるだけの口付けをして、見つめ合う。
「……なんで、好きになってくれたの?」
未だに、自分がなぜ孝弘に好かれたのかわからなくて、囁くように小さな声で尋ねた。
彼は記憶を辿るように少し瞼を伏せて、ゆっくりと話し始める。
「最初は、落ち着いた感じの綺麗な人だと思った。でも、話してたら意外とコロコロ表情が変わるところとか、可愛くて、目が離せなくなって」
「…………」
「真面目でしっかりしてそうなのに意外と大胆で振り回されるし、大胆かと思えば意外と照れ屋で……気付いたらどっぷり嵌ってた」
優しく微笑んでそんなことを言う孝弘の破壊力は凄まじくて、私は再び両手で顔を覆った。
しかしすぐにべりっと剥がされて、照れを隠しきれていない顔を晒すことになる。
「……ほら、そういうとこ。可愛い」
「すぐそういうこと言う……!」
「彩香が可愛いから仕方ない」
「やめて……」
「嫌ならやめるけど、照れてるだけならやめない」
「あー……もう……」
海外生活の賜物なのか、孝弘は聞いているこっちが恥ずかしくなるような甘い言葉を、照れることなく優しく蕩けるような笑みで言うものだから、本当に心臓に悪い。
手は押さえられているので、首を横に振って髪の毛で顔を隠そうと試みる。
長い髪は思惑通り顔を覆ってくれたけれど、「ぐしゃぐしゃ」と笑いながら孝弘が髪を整えてくれたことで、再び隠すものが何もなくなってしまった。
対抗手段を失った私は、ふと先程のことを思い出す。
……私が孝弘の好きなところを挙げ連ねている時、結構照れている様子だったし、口は自由なのだから、反撃するなら口を使えばいいのでは?
「……孝弘」
「ん?」
「そうやって、“ん?”って言う優しい声も好き……あと、寝てる時抱きしめてくれるのも。お酒作るの上手で料理もできて完璧なのに、抜けてるところが可愛くて癖になる」
「ちょっと待って」
たじろいだように、少し孝弘が身を引く。
反撃成功にちょっといい気になって、私はさらに言葉を続けた。
「孝弘は自分のこと地味担当って言ってたけど、全然地味じゃない。派手ではないけど整ってるし、ちょっと鋭い感じの孝弘の顔、私は好きだよ」
「……彩香」
「それから、芸能人ってもっと気取ってる感じだと思ってたのに、孝弘はいい意味で普通で、そういうところも――んっ!」
好き、と続けようとした口は、孝弘の唇によって強引に塞がれた。
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