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私もカフェラテを一口飲んでから、もう1つ、伝えておくべき事柄を口にする。
「それから、1つ残念なお知らせがあります」
「……え、なに。怖い」
「御園さん、横山さんが私狙いだと勘違いしてるんだよね」
「えっ」
「だから、頑張って早めに軌道修正した方がいいよ」
「マジか……」
「まあ、確かにちょっと紛らわしい感じではあったね」
「……俺が直で行くと駄目だったとき会社で気不味くなりそうだし、御園さんに超慕われてる工藤さんに橋渡ししてもらおうかなーとか思ってたんだ。邪な企みが裏目に出た……」
「なるほど、そういうことか」
以前のランチで社内恋愛の話になった時、部長に「会社でゴタゴタ起こすなよ?」と言われた横山さんは「その辺は俺だって弁えてますよ」と言っていた。
直接アプローチする前に私から探りを入れようとするやり方は、上手くいかなかった場合が大変な社内恋愛において、かなりいい手だと思う。
……本人に勘違いされてしまっては、元も子もないけれど。
「ちなみに、現状だと俺に望みある?」
「んー……割とあるんじゃないかな。横山さんのことかなり褒めてたし」
――『横山さん、いい人ですよ。性格いいし見た目も可愛い系の割とイケメンで、仕事できるし結婚願望強いし』
私に横山さんをプッシュして、というのが若干残念なところではあるけれど、あの言葉には御園さんの主観が大きく反映されているはずだ。
あれだけ淀みなく良いところを羅列できたのだから、彼女が横山さんにかなりの好感を抱いているのは、まず間違いない。
「じゃあ、頑張ってみよっかな」
「うん、頑張って。私は御園さんが幸せになるならなんでもいいから」
「おー、御園さん愛されてるねぇ」
笑い合った私たちは、なんとなくコーヒーの紙コップをコツンとぶつけて乾杯する。
……私と孝弘のような残念なすれ違いを防げたことに少し満足しつつ、「もし2人が結婚することになったらどっちか異動になっちゃうのかな」なんて気の早い心配をするのだった。
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