02. 深まる関係

8/16
前へ
/342ページ
次へ
――木曜日。 媒体のリニューアル日が3月頭に確定し、新たに創設するジャンルの記事作成などをせっせと進める。 あれこれ決めなければならない一番大変な時期は過ぎ、今はただ、着々と準備を進めている状態。 だから、あまり業務も切羽詰まっていない。 この日も20時少し前には一段落ついて、私は帰り支度に入っていた。 ……夕方に孝弘から入っていた連絡では、20時過ぎに迎えに行くとのことだったけれど、もうそろそろ来ていたりするのだろうか。 何か追加で連絡が入っていないか、スマホを開いてみると。 『俺少し遅くなるから、雅也に行ってもらう』 『あと、雅也に連絡先教えた。勝手にごめん』 『ついたら連絡入るはず』 「えっ」 「どうした?」 「ごめん、なんでもない」 思いがけないメッセージが目に飛び込んで、うっかり声を上げてしまった。 怪訝な顔をする横山さんに謝り、とりあえず『わかった』と返事を送りつつ立ち上がる。 「……お疲れ様です」 「お疲れ様です」 何人か残っているメンバーに挨拶をしてオフィスを出ると、新しいメッセージが1件。 “飯島(いいじま)”さんからで、『ついたよ〜』という緩い感じの一言が届いた。 ……雅也さんの名字を聞いたことがなかったけれど、飯島さんというのだろうか。 なんて考えていると、新たにメッセージが表示される。 『あ、雅也です。初めましてだね』 『初めまして、工藤です。すぐに向かいます』 『はーい。孝弘と約束してた場所でよろしく』 『わかりました』 エレベーターに乗り込んで1階へ下り、足早にエントランスを出る。 孝弘と約束していた場所というのは、会社から1本入った路地のことだ。 あまり車が通らず道幅はそれなりにあるので、路端に停まっている車がちらほらある。 軽自動車に、大型のワンボックスカー、ミニバン――そんな中で、ハザードランプをつけた車が1台あった。 街灯を反射する、艶々の黒いベンツ。 あれだろうか、と思って見ていると、窓が開いてひらひらと手を振られる。 どうやら正解だったみたいだ。
/342ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9205人が本棚に入れています
本棚に追加