【第一部】01. 金曜夜のイレギュラー

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「さてさて、工藤さん」 「なに?」 「週末、何かいいことありました?」 「…………」 ――朝から時折視線を感じると思ったら、それが聞きたかったのか。 「無言は図星と解釈しますよ~」 「はいはい」 「工藤さん、何だかさっぱりしたような……? 上機嫌っぽくも見えるし、気になります」 「上機嫌ねぇ」 「そうですよ、ちょっとだけなんで気付いてる人は少ないと思いますけど」 普段は大雑把であっけらかんとしているのに、こういう時だけ妙な鋭さを発揮する彼女に溜息を一つ零し、湯呑みに手を伸ばす。 「……で、どうなんですか? もしかしてもしかして、いい男でも見つけました?」 「…………」 「無言は図星と解釈します。ふふ、工藤さんってポーカーフェイスの割に結構分かりやすいですよねぇ」 「……その鋭さを他で発揮したらいいんじゃないかな」 「善処しまーす」 勝ち誇った笑みを浮かべる御園さんと、僅かに肩を落とす私。そこへ、鉄火丼が運ばれてくる。 これで話題が少しは途切れる――なんてこともなく、だし醤油をかけながら、彼女はさらに追撃を加えた。 「たまには工藤さんの恋愛話聞きたいな~」 「私は聞く専門でいいよ」 「ダメです。今日は私が聞きたいんです」 興味津々、話すまでは絶対に引かないことを匂わされ、諦めの溜息が漏れた。 溜息の示すところを察し、「わぁい!」と歓声をあげる彼女。 その無邪気さが、居た堪れない気持ちに拍車をかける。 「面白くもなんともない話だよ。飲んでたらかなりタイプの人がいて、なんとなく流れでそのまま、みたいな」 「そのまま……? ど、どこまで……?」 「最後まで……?」 「マジですか。ひゃぁ……リアルでそんなことあるんですねぇ」 「自分でもびっくりした。雰囲気と流れって怖いね」 そう言いつつも、後悔はしていない。 成り行きでのいわゆる“ワンナイトラブ”だというのに、自分でも驚くほど気分がさっぱりしているのは、一晩だけとはいえかなり濃密な時間を過ごしたからだろうか。 「でもでも、それもアリだって思えるくらい良い人だったってことですよね! いやぁ、気になる! 詳しく聞かせてくださいよ~」 「……今度飲むとき、気が向いたらね」 「ええーっ!」 きっと話すことはないだろうなと思いつつ、私は鉄火丼を頬張った。 ----------------------------------- 日替わり海鮮丼=鉄火丼 前ページ参照。指摘不要
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