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社会人になって2年足らずで彼氏と切れ、それから26歳になるまで付き合いゼロ。
男日照りが続いているし、冬という季節も手伝ってか、いい加減少し人肌恋しくなってきている。
できれば彼氏が欲しい。
けれど、付き合う云々が面倒な気も――って、駄目だ、心が枯れかけ。
恋愛をしたいという気持ちよりも人肌恋しさが勝るなんて、と自分で自分に落胆する。
……そこまで軽薄に生きてきた覚えはないけれど、刹那的な付き合いでもいいからぬくもりに触れたい気分だった。
贅沢を言うなら、タイプど真ん中の人に、少し苦しいくらいに抱き締められたい。
もちろん、そんなことしてくれる相手なんて、全然いないけれど。
……ちょっぴりやさぐれながらグラスを重ねている内に、23時過ぎ。
その頃には店内の顔ぶれもすっかり変わっていて、マスターがシェイカーを振る小気味良い音が響く静かな空間となっていた。
賑わうのも時にはいいけれど、やっぱりこれくらいの方が落ち着く。
ほっと息を吐き、次は何を頼もうかとメニューを眺めていた時のことだった。
──カラン
入口のドアに付いているベルが涼やかな音を立て、来客を告げる。ちらりとそちらを見遣れば、見慣れない男性客が2人。
「こんばんは」
しかし、マスターが「いらっしゃいませ」と言わないということは、幾度か来たことがある人なのだろう。
彼らは私から1つ空席を挟んだところに、並んで腰を下ろした。
「久しぶりだね」
「ほんとですよ。ずっと来たかったのに仕事仕事で」
「それはそれは、お疲れ様でした。いつもと同じでいいかな?」
「……ん、よろしく」
手前に座った男性は、底抜けに明るい雰囲気の人だった。
明るめの茶髪に、左耳にはピアス。両手に指輪をいくつもつけている。
それでも軽薄そうには見えず、様になっているのが驚きだ。
もう1人は黒髪にモノトーンで揃えた服。
落ち着いたクールな雰囲気で、右手中指のリングくらいしか装飾品を身に着けていない。
なんだか対照的な2人組だ。
共通項があるとすれば――声だろうか。
茶髪の男性は、ボリュームは控えめでもよく通る声だ。
もう1人の男性は、腰に響くような妙に色気のある低い声。
タイプは違うけれど2人とも良い声をしている。
一瞥しただけだが顔立ちも整っているので、舞台俳優とか向いてそう。
「工藤さん、次いく?」
勝手なことをつらつら考えていると、グラスの残りが僅かになったのを見てマスターが声を掛けてくる。
しばらくは弱めのロングカクテルを飲んでいたので、そろそろ強めのショートカクテルに入るのもいいかもしれない。
「マティーニで」
「おっと、これは気合を入れないとね」
肩を竦めるマスター。
何を作っても一級品なのに、とくすくす笑って手元のお酒を飲み干すと、横から感嘆するような声が上がった。
声の主は、先程来たばかりの男性。楽しそうに笑みを浮かべている。
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