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「どうも、こんばんは」
「こんばんは」
やはり、小さくても良く通る声。
年齢は私と同じか少し上、二十代半ばくらいだろうかと当たりをつける。
目尻のやや下がった、甘めで全体的に整った顔立ち。少し野暮ったい黒縁眼鏡がなければ、街中でも目立ちそうな美男だ。
「おひとりですか?」
「はい、残念ながら」
親しみやすい雰囲気に気を緩めて自虐ネタで返してみると、小さく噴き出した彼はそっとおつまみを差し出してくれた。
――マスターの紹介によると、2人は5年ほど前から通っているかなりの古株らしい。
この数か月は多忙で全く顔を出せなかったため、私と同じタイミングで来店したのは初めて。道理で見慣れないはずだ。
ツボがよく分からない茶髪の彼は直緒、その隣の黒髪の彼は孝弘と名乗り、そのまま流れで一緒に飲むことになった。
「工藤さん、結構来てるんだ」
「月3〜4回は。ほぼ毎週かな」
「へぇ、じゃあこれからは時々会うこともあるかもね」
「その時はまたおつまみ分けてください」
「あははっ、いいよ」
会話の間、しょっちゅう笑う直緒さん。
その傍ら、孝弘さんはあまり話さず黙々と飲み続けていた。
タイプの違う彼らだが関係は良好のようで、この2人はこのリズムでずっと付き合ってきたのだろうな、と見て取れる。
「直緒さんと孝弘さんって仕事仲間?」
「え……? ああ、うん、そんな感じ。高校生のころからの付き合いでね」
「10年超える腐れ縁だな」
「うわぁ、すごい。高校の同級生と同じ職場なんてそうそうないよね」
「同じ職場……ふふ、そうだね」
なぜだか楽しそうに笑う直緒さんを、孝弘さんが肘で軽く小突く。
やっぱり彼のツボはよくわからないが、2人の仲が良いことはよくわかった。
──その後は、主に直緒さんが、高校時代の面白エピソードをあれこれ披露してくれた。
意外なことに、色々やらかしていたのは孝弘さんの方らしい。
「今でも時々窓とかドアのガラスにぶつかってて――」
「おい、直緒」
暴露されては渋面になり、しかし最後は諦め気味に苦笑する孝弘さんは、きっと根が優しい。
見た目は硬派というか、良い意味で男臭さのある人なのだが、内面は天然っぽいところもあるのが絶妙に心をくすぐった。
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