【第一部】01. 金曜夜のイレギュラー

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「どうも、こんばんは」 「こんばんは」 やはり、小さくても良く通る声。 年齢は私と同じか少し上、二十代半ばくらいだろうかと当たりをつける。 目尻のやや下がった、甘めで全体的に整った顔立ち。少し野暮ったい黒縁眼鏡がなければ、街中でも目立ちそうな美男だ。 「おひとりですか?」 「はい、残念ながら」 親しみやすい雰囲気に気を緩めて自虐ネタで返してみると、小さく噴き出した彼はそっとおつまみを差し出してくれた。 ――マスターの紹介によると、2人は5年ほど前から通っているかなりの古株らしい。 この数か月は多忙で全く顔を出せなかったため、私と同じタイミングで来店したのは初めて。道理で見慣れないはずだ。 ツボがよく分からない茶髪の彼は直緒(なお)、その隣の黒髪の彼は孝弘(たかひろ)と名乗り、そのまま流れで一緒に飲むことになった。 「工藤さん、結構来てるんだ」 「月3〜4回は。ほぼ毎週かな」 「へぇ、じゃあこれからは時々会うこともあるかもね」 「その時はまたおつまみ分けてください」 「あははっ、いいよ」 会話の間、しょっちゅう笑う直緒さん。 その傍ら、孝弘さんはあまり話さず黙々と飲み続けていた。 タイプの違う彼らだが関係は良好のようで、この2人はこのリズムでずっと付き合ってきたのだろうな、と見て取れる。 「直緒さんと孝弘さんって仕事仲間?」 「え……? ああ、うん、そんな感じ。高校生のころからの付き合いでね」 「10年超える腐れ縁だな」 「うわぁ、すごい。高校の同級生と同じ職場なんてそうそうないよね」 「同じ職場……ふふ、そうだね」 なぜだか楽しそうに笑う直緒さんを、孝弘さんが肘で軽く小突く。 やっぱり彼のツボはよくわからないが、2人の仲が良いことはよくわかった。 ──その後は、主に直緒さんが、高校時代の面白エピソードをあれこれ披露してくれた。 意外なことに、色々やらかしていたのは孝弘さんの方らしい。 「今でも時々窓とかドアのガラスにぶつかってて――」 「おい、直緒」 暴露されては渋面になり、しかし最後は諦め気味に苦笑する孝弘さんは、きっと根が優しい。 見た目は硬派というか、良い意味で男臭さのある人なのだが、内面は天然っぽいところもあるのが絶妙に心をくすぐった。
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