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現在9(城北高校_校長室にて)
職員室に戻ると、校長が八雲を呼び出した。
「八雲先生!ちょっと校長室に来てくれ」
校長室に入ると、東京教材の作業着を着ている、橋本という男性が、パソコンを操作している。
東京教材は、東京・千葉にある学校の教材の販売や、情報システム管理を任されている。
八雲は、何度か打ち合わせをしているので、顔馴染みであった。
「実は、今日、公立高校の校長が使うパソコンを、新しい機種に交換する作業だったんだ。リプレイスと言うのかな。それに伴って教育委員会と校長同士が一斉にテレビ会議ができるシステムも入れたらしいんだが、どうも上手くいかないようで・・・」
パソコンを操作している、橋本が申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ないのだけど、私は、もう出なければならないんだよ。ちょっと、業者さんに付き合って貰ってもいいかな?どうせ、私が立ち会っても、分からないし」
八雲は了承すると、校長はカバンを持って校長室を出て行った。
「橋本さん、僕は職員室で、仕事していますので、声を掛けてください」
「すいません。八雲先生。早めに終わらせますので」
再度、橋本が申し訳なさそうに頭を下げた。
しかし、橋本が八雲に声を掛けた時には、既に19時を過ぎていた。
「八雲先生、本当に申し訳ございません。こちらの端末のセットアップは、終わっているんですが、
他校が、うまく繋がらなくって・・・新人が手間取っているみたいで・・・」
「東京教材さんには、いつも我儘聞いて貰っているから、お構いなく、皆さんこそ週末なのに、大変ですね」
と言ったところで、橋本の携帯が鳴った。携帯電話を持ったまま廊下に出た橋本は大きな声で、叱咤している。
どうやら、さっき話していた新人が掛けてきたようだ。
八雲は、校長室に入り、ノートパソコンのモニタを見ると、複数の画面割が出力されていて、手前に八雲の顔が映っていた。
モニタの上部にカメラが内蔵されており、それが反映されているようだ。
出力されている画面割は五カ所だったが、校長室と思われる背景と、真っ暗なものがある。
それぞれ、話声が入り混じっている。すると、その中の一つの画面に人影が映った。
映し出されたのは、坂本若菜だった。
若菜は、画面を見て一瞬驚いたが、それが八雲と分かると、画面上でピースをしたり、投げキッスをしたりと、お道化だした。
八雲は、困惑しながら、ヤメロヤメロと声を出さずに、口を動かす。
すると、若菜が周りを見渡したかと思うと、今度はスマホを取り出して、八雲とツーショットの写真を画面に突き出した。
コイツは、他の高校にも映っているって分からないのか。八雲は頭を抱える。
画面の向こうで、若菜はスマホをフリックしている。
ピコン!八雲のスマホが鳴った
「きょう、帰りに寄るから宜しく!私の好きなハイボールも買っといて」
と言うラインの後に、応援団がオッスと言っているスタンプが貼られた。
「他の高校にも、映っているんだよ。何考えているんだ」とラインで返すと
「超ドキドキだったじゃん。直毅の顔うけるw」
その時、真っ黒だった画面に、背景が出力された。
「橋本さん。上手くいったようですよ」と八雲は橋本を呼びに校長室を出た。
八雲が、アパートに帰った時には、21時をまわっていた、若菜は既に風呂に入って、パジャマ姿で、マリオカートをしていた。
「おかえり~。久しぶりに会ったね」
若菜が悪戯な感じで笑みを浮かべて、ハイボールの缶を渡す。
「どうせ、直毅は業者さんに最後まで付き合うから、私より遅いと思って買っといた」
「まったく・・・」
八雲は、ゲームのコントローラーを取り
「負けた方が、コンビニの、おでんを猛ダッシュな」
先週まで、圧倒的な差を付けて勝っていたのに、今日はボロボロに差を付けられ、八雲は負けた。
これだから、スポーツバカは・・・・
相関図
八雲 直毅(城北高校の物理教師)
坂本 若菜(高校教師・八雲の恋人)
橋本(東京教材会社員・システム管理者)
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