現在15(城北高校_メディア教室_八雲の部屋にて)

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現在15(城北高校_メディア教室_八雲の部屋にて)

八雲は、週末に講師を招いて行われるプログラミング授業の準備をする為に、サーバー室で作業をしていた。 一段落着いたところで、ステンレスボトルに入ったコーヒーを飲み、アクセスログを眺める。 龍太郎が持参したプリントを調査してから、1ヶ月が経つが、その後も、この学校からアクセスした形跡は無かった 当該のアドレスもしくは、ドメインに城北高校内からアクセスした場合、アラートメールを八雲のスマホに送る設定にしている。 龍太郎の指示は、佐分利が付けたマークのアドレスの調査と、城北高校で同じようなアドレスにアクセスしていないかを調べてくれと言われていた。 逮捕された高校生二人の関係性を調べているのだろうが、城北高校のアクセス記録を調査する意味は未だに分からない 八雲は、自殺サイトとか、殺人依頼サイトとかの、いわゆるアンダーグラウンドなサイトに目星を付けているのだろうと勝手に解釈していた。 その日のメディア教室をサーバー室の明かり窓から見てみると、明日が全国統一テストの為か、男子高校生2人がパソコンを扱っているだけだった。 メディア教室を施錠するまで、1時間ほど有ったので、一旦職員室に戻ろうと腰をあげた時だった。 ピコン 八雲のスマホにメールが届いた。それは、当該のアドレスか、ドメインにアクセスした事のアラートメールだった。 アクセスしているパソコンの場所は、メディア教室の端末であることが、端末名から分かる。 八雲は、サーバー室から飛び出した。 「おい!」 男子生徒二人は、目を見開き 「げ!八雲先生いたの!」と狼狽えて、荷物を持って、慌てて帰ろうとした。 「ちょっと待て。電源を切るな」 一人が、パソコンの電源を直接押下しようとしている。勿論、強制終了は止むを得ない場合を除いて禁止している よほど、見られたくないモノなのだと、八雲は直感的に感じ取ることができた。 パソコンのモニタを覗くとグーグルのウェブメール受信箱の画面が映し出されていた。 「今、何かのページにアクセスしただろう。それを見せろ」 二人は2年生のサッカー部の生徒だった。観念したのか、受信箱からメールを開く。 そこには、アドレスがハイパーリンクで貼り付けてあり、青い文字をクリックするとページに遷移する様になっているようだ。 「先生。俺たち知らないでクリックしただけなんです」という生徒を尻目に八雲がマウスを動かす。 ページに出てきたのは、アダルトの動画だった。 「ほお、学校のパソコンでアダルトビデオを見るとは、いい度胸をしてるじゃないか」 完全に青ざめている生徒を見据えて、八雲は低い声で言った 「このページの詳細を話せ。このサイトがどういうものか。このメールは何処から送られてくるのか」 もじもじとする二人の生徒の後ろ襟を掴むと 「それじゃ、メディア教室の掲示板に、パソコンを使用してアダルトビデオを見ていた為、アカウントを凍結したと、名前入りで掲示するしかないな」 二人の生徒は涙目になりながら、それだけは勘弁して下さいと懇願し、白状し始めた。 このページは、同じ塾に通っている、他校生徒から紹介されたもので、送付されたメールにアドレスを入れて返送すると、定期的に動画が見れるページのアドレスを送られてくるらしい。 それが、どうやら在学中の女子高生が援助交際している動画ということだった。 「友達が、他の学校で見た娘が出たことあると言っていました」 ただし、見ることが出来るのは数日間だけで、ページ自体が無くなるという話だった。 家の有害サイトブロックに引っ掛からないということで、塾の男子生徒にも広まっており、 今日はそれを片方の友達に教えるために、学校のパソコンを使ったと語った。 八雲は男子高校生の頭の中は、抑えきれない情欲が占めているのだろうと、ある程度は理解を示し、今回だけは説教だけで許してやるかと考えた。 「おい、お前らが、救われる道は二つある。一つは、学年が変わるまで、メディア教室前の廊下の雑巾がけと教室の机を雑巾がけする事。安心しろ、掲示板の罪状にはパソコンを悪戯したためと書いてやる。もう一つは、お前らの担任の・・・・」 と言いかけた時に、二人は「雑巾がけします!」と声を揃えて言った。 二人の担任は、学校ではマドンナの様な存在で、男子生徒の憧れでもあった。先日最終回を迎えた、男子高生と女子教師が禁断の愛の末、結ばれるドラマに影響を受けて、自分たちに少しでもチャンスがあると思っているのか、女教師に汚点を知られるのを恐れた生徒を痛々しい目で見ながら 「じゃあ、明日から猛省をして、雑巾がけをしろ!」と言うと二人は、謝罪して、足早に帰って行った。 その後、職員室に帰った八雲は、そのマドンナ先生を見つけると、速攻で今日の事をばらした。 人目をはばからず、爆笑をしながら 「もう、男の子はバカばっかりですね。分かりました。私は黙っときます。でも、二人を見たら笑っちゃうな」 女性の教師は強い。お前らの思っている様な眩しい存在じゃないぞ。二人を憐みながら八雲は思わず若菜の事を思い出し、妙に納得した。 ※ 八雲は、生徒が帰った後、パソコンをシャットダウンせずに、男子生徒のウェブメールを使い、自分のメールアドレスを記述してメールを送信した。その後、送信メールを削除した。 その二時間後に、アレックスという送信者名でメールが送信されてきた。 自宅に帰って来た八雲は、当該のメールを開き、アドレスをクリックした。 動画に現れた援助交際の女子高生は、千葉市内にある高校の制服を着ている様だった。 卓球の大会で八雲は何度か見かけたことがある。 ただし、女性は常にマスクを付けている。動画再生されている枠の上に学年とイニシャル、運動部と書かれてあり、エクボに特徴がとか、ホクロが耳の裏にあるとか、その女子高生を特定できそうなヒントが書いてあった。  なんだこれは。と八雲が思って、椅子の背もたれに寄りかかったところ、背後に冷ややかな視線を感じた。 背後に仁王立ちしているのは、若菜だった。 「これは、由々しき事態ですね。高校の教師が女子高生のアダルトビデオを見ておられるとは」若菜は完全にキレていた。 若菜が丁寧に話をするときは、怒っている時だ。 八雲は「ばか!違うよ。これは、龍太郎に頼まれたんだ。もしかしたら、事件に関係があるかもしれないから、調べてくれって」 「へえー。女子高生のアダルトビデオが何で事件に関係あるのか、教えて頂けますでしょうか?私には全く理解できませんけど」 「それは・・今、調べているところで・・・」八雲は、自分で話しながらも、これは到底、信用して貰えないと自分でも思った。 電車に人を突き落とした男子高校生の事件とアダルトビデオには、関係性の欠片も見えない。 八雲は、龍太郎を心底、恨んだ。 「さあ、言いなさいよ。はやく!どう関係がある・・・・・ん?」 八雲を追い込もうと若菜が凄んだ時、若菜は動画を凝視し始めた。 「ねえ、これ巻き戻せるの。ちょっと巻き戻して」 「え!まさか、これ見たいの?」 「ばか!いいから巻き戻せ!」 若菜は同じ画面を何度も、何度も繰り返した。そのうちに「せ」「お」「せ」「お」と若菜は、その画面をみながら呟き始めた。 「この動画、文字が埋め込まれている。ほら」と言って、八雲にも同じ場面を見せた。確かに動画の間で一瞬光って見えるところがある。だがそこに文字が書いているかは八雲には分からなかった。 どうやら、インカレで千葉代表に選ばれた若菜の動体視力にだけは映し出されるようだった。 次の日、動画の事を龍太郎に報告し、佐分利に貰った名刺に書いてあるアドレスを、アレックスと呼ばれる送信者に返信したと伝えた 八雲 直毅(城北高校の物理教師) 坂本 若菜(高校教師・八雲の恋人)
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