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高校時代16(十四年前_教室にて_高校2年生)
【十四年前、八雲直毅 高校2年生_船橋中央高校】
「大ニュース!大ニュース!」
瑞穂と連れ立って、手洗いに行ったはずなのに、亜希だけが走って戻ってきた。
さっきまで、弁当を食べていた自分の席に座る。
八雲と、英嗣、龍太郎の前の机に、白く折りたたまれた紙を乗せる。
「これ、何だと思う?」亜希が悪戯に微笑みながら、三人に聞く。
折りたたまれた、紙を開き、紙をポンと手のひらで叩く。どうやら、便箋の様だ。
「なんと、瑞穂がラブレターを貰いました!」
八雲は、おお!と言い、英嗣は口笛を吹いた。
瑞穂が息を切らせながら、席に戻ってきた。
「亜希ちゃん、皆に見せるなんて、ダメだよ」
「校内の公認カップルである、龍太郎は聞き捨てならないですな」英嗣が揶揄する。
龍太郎は、瑞穂の持ってきた弁当を食べ、お茶を飲みながら
「そりゃ、瑞穂だって、時にはモテることだってあるさ」
「なに、その言い方」瑞穂が膨れる。
英嗣が、それで誰だ?と亜希に言う。
「一年生の女の子」
なんだよ~それ。英嗣と八雲は椅子にのけぞる。先日の文化祭で多くの人から要望が挙がり、亜希を加えたサンドバックスが演奏を行った。その後、後輩の女子生徒内で、瑞穂と亜希のファンクラブの様なモノが出来ていると、八雲は卓球部の後輩から聞いていた。
「いつも小住先輩の事を遠くから見ていました、濱野先輩とお付き合いされているのは知っていますが、どうしても、私の思いを伝えたくて、筆をとりましたって書いてあるよ」便せん三枚ほどに奇麗な字で、びっしりと、したためられていた。
「ど、ど、どうしよう」
「瑞穂、ドモってるぞ」八雲は笑いながら言う。
二年生になり、吃音症を冗談にできるほど、瑞穂は改善していた。
亜希は、瑞穂を見ながら
「バカね。あんたは。こんなのは、女の子の風邪っ引きみたいなもんだよ。時々、掛かっちゃうんだよ。私の所にも、演奏終わってから、二人くらい来たもん。そういう時はさ、こうやって」
亜希が、瑞穂の頬を、手のひらで、そっと触って
「ありがとう。貴方の気持ちは受け取ったよ。これからは、私も貴方の事を見るようにするねって言ってあげるんだよ。そしたら、収まるから」
また、亜希が、口から出任せを言ってると、八雲は呆れる。
瑞穂は、そうなの?と呟いている。
英嗣が教室の天井を見上げながら、
「目眩く百合の世界か、その女の子は、毎晩、瑞穂の裸を想像しているかもしれんな」
亜希が便乗して
「小住先輩の裸、奇麗です。私、もう、我慢が・・・」
二人の夫婦漫才が始まる。瑞穂は、茹蛸の様に、顔が真っ赤になっていた。
話題に飽きた所で、龍太郎が底の深い弁当箱を二つ重ねて、瑞穂に手渡した。
「今日も旨かったって、おばさんに伝えておいてくれ。家にあるのは、洗って机に乗せてあるから」
瑞穂は、ウンと頷き、弁当箱を仕舞う。
「瑞穂のおばさんに、昼飯と夕飯を作ってもらう様になってから、筋肉の付き方が違うんだ。体の調子も、すこぶる良い。飯なんて、関係ないと思ってたけど、やっぱり栄養士さんは違うな」
龍太郎が一人暮らしの上に、コンビニの弁当が主食と言う事を聞いて、瑞穂の母親が昼と夜に弁当を作ってくれることになったらしく、夕方に瑞穂は、龍太郎の部屋に弁当を届けていた。自主練で遅くなる龍太郎は、それを電子レンジで温めて食べている。
亜希は、紙パックの牛乳を、ズズっとストローで飲み干してから
「本当に、おばさんだけで作っていると思っているのかね」と肘を付きながら呟くと、チャイムが鳴った。
※
その日の夕方、八雲が部活動の顧問の所に、新しく購入してもらった卓球ボールを取りに校舎内に入ったところ、廊下の隅に、瑞穂と、真面目そうな感じの女子が一緒に居て、瑞穂が女子の頬を手のひらで触っている。女子生徒は、瑞穂に、お辞儀をして、走っていってしまった。
八雲は、瑞穂に近づき、「瑞穂、おまえ、まさか、今日の亜希の言葉を信じて・・・」
瑞穂は「え!あれ嘘なの?」とオロオロし始めた。
常々見せる、瑞穂のド天然が炸裂した。
とりあえず、明日の昼休みの話題には、事欠くことは無いようだ。
夕日が窓から差し込み、瑞穂の顔が赤いのか、夕映えのせいなのか、分からなかった。
相関図
八雲 直毅(船橋中央高校2年生)
濱野 龍太郎(船橋中央高校2年生)
松木 英嗣(船橋中央高校2年生)
小住 瑞穂(船橋中央高校2年生)
城石 亜希子(船橋中央高校2年生)
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