高校時代21(十三年前_バーベキュー_高校3年生)

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高校時代21(十三年前_バーベキュー_高校3年生)

【十三年前、八雲直毅 高校3年生_船橋中央高校】 夏季休暇の最終週に小住家の別荘に招かれた4人は、バーベキューをする為に近くの河原に来ていた。 澄み切った小川に、日光が当たり、まるでダイヤモンドが散りばめられた様だった。 小川に入った、龍太郎、亜希、英嗣が、小学生に戻ったかの如く、はしゃいでいる。 八雲は、三人が途中で投げ出したバーベキューコンロを組み立て、瑞穂が敷いたマットの上に腰を下ろした。 瑞穂は、手に持った缶ジュースを八雲に渡し、膝を抱えて隣に座る。 「もう、進路は決まったの?八雲君」 「ん、俺は龍太郎や、英嗣みたいに、特技があるわけでもないし、適当な大学行って、適当にサラリーマンにでもなろうかな」 「八雲君はさ、学校の先生になったらどう?凄く似合うと思うし、生徒の皆から好かれる先生になれるよ」 「そうかな。でも、嬉しいよ。」八雲は、自分の社会人姿なんて想像したこともなかったが、教師というのもアリかなと、この時思った。 河原の向こうで手を振っていた亜希に、瑞穂は手を振り返し、地面に落ちている綺麗な丸い石を拾った。 「私ね。笑わないで聞いて欲しいんだけど・・・実は、八雲君の事が好きだったんだよ。」 八雲は思わず、瑞穂の横顔を見た。 「私は、小学校と中学校、いじめられてきたの。毎日が地獄の様な日常だった、ただ、両親には心配させてはいけないと思い、ずっと我慢してきたの。でも、ある時、私の頭のネジが飛んじゃって・・・・自殺しようとしたの」瑞穂は左手の腕時計を外して、手首を見せた。そこには、手首に沿って、傷跡が残っていた。 「二日ほど集中治療室に居たらしいけど、目が覚めて、私は思わず泣いてしまった。それは、生きていて嬉しいという事ではなく、また地獄に舞い戻ったと言う悔し涙だったの」その事件の後は、無視されるという日々が続き、今の高校に進学したという。 「高校に進学したのは、ママを安心させたかったから。毎日泣いてたし。でも、私の中では、決意があって、高校でダメだったら、今度は失敗しない方法で自分自身の幕を引こうと考えていたの。そしたらさ・・・」 瑞穂は八雲の方を向いて、微笑み、 「覚えているかな?入学の時に、八雲君が、私の事を守ってくれたの」 「私ね・・・そんなこと、今までされたこともなかったし、私の存在が見えている人に、両親以外で初めて会えたの。びっくりして、嬉しくって」 目尻を人差し指で、少し押さえて、続ける。 「家に帰っても、八雲君の事ばかり考えてしまって、本当に困った。八雲君は、私の初恋だったの。だから、毎日、勇気をふり絞って、どういう風に話しかけたらいいかをシミュレーションするんだよ。次の日こそは・・・今度こそはって、そしたら、フフフ」 「あの、二人がやって来るの。龍太郎君と英嗣君。」 「私は、なんで隣のクラスなのに八雲君の机に、いつも来るの?って、実は恨めしく思ってたの」 「そしたら、龍太郎君が・・・お前の足は臭いか?だって!」瑞穂は、握っていた綺麗な石をポイッと足元に投げた。 「私ね。今まで怒りという感情が無いと思ってたんだけど、その時だけはプンプンだよ。だって、好きな人の前で、お前の足は臭いか?って聞かれるんだよ。そりゃ、私だってキレますよ。」 そう言って、冗談めかして頬をプウと膨らませた瑞穂の横顔は、水面の光が反射して、八雲は素直に愛らしく思った。 「その後は、知っていると思うけど、龍太郎君と会話する時だけは、吃音が出なくなった。それが分かった龍太郎君は優しいから、積極的に話かけてくれて・・・・・そして、私の初恋は終わったの」 「龍太郎君、亜希ちゃん、英嗣君、八雲君は、私を地獄から救ってくれたんだよ。本当に深い深い闇の底から・・・・・・本当にありがとう。だから、高校を卒業しても、私と友達でいてね。」 長い睫毛の奥にある、茶色掛かった大きな瞳から、涙が頬を伝って流れる。 八雲は、河原を眺めながら、この生活が、永遠には続かないことを、改めて認識した。 アオハルか・・・・俺には関係無いものと思ってたんだけどな。 スッと空気を吸って、立ち上った。 「みんなのところへ行こう」瑞穂の透き通るような白い手首を、掴んで走り出した。 「うぉおおおおおおお」と八雲が叫び、それを見た瑞穂も真似をして叫んだ。 それは、赤ちゃんライオンの様な咆哮で、見ていた全員が、思わず笑い出した。 この半年後、瑞穂は自殺する。 相関図 八雲 直毅(船橋中央高校3年生) 濱野 龍太郎(船橋中央高校3年生) 松木 英嗣(船橋中央高校3年生) 小住 瑞穂(船橋中央高校3年生) 城石 亜希子(船橋中央高校3年生)
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