高校時代23(十三年前_龍太郎の部屋_高校3年生)

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高校時代23(十三年前_龍太郎の部屋_高校3年生)

【十三年前、濱野龍太郎 高校3年生_船橋中央高校】 推薦で大学入学が決まっていた龍太郎は、勘が鈍らない様に後輩の練習に一部参加して、自主トレを行ってから家に帰る。 ランニング中に晴れ着の女性が、やけに多いなと思ったら、その日は、市民会館で成人式が行われていた。 会館前の広場に車高の低い黒い車が止まっていて、車の脇で、一升瓶を片手に持った男性が警察官に絡んでいる。 その周りで、取り巻きと思われる野次馬が、大声を張り上げていた。 酔って暴言を吐く若い男性を、丁寧な言葉で諭す警察官を見た龍太郎は、仕事とは言え、畏敬の念を抱いた。 日が暮れて、ランニングから帰ると部屋の机の上に、弁当と手紙が置いてあった、手紙には瑞穂の筆跡で 「角煮に挑戦してみました。文句を言わずに食べて下さい」と押し売りの様な言葉が書いてあり、明日瑞穂に会ったら、なんて言ってやろうかと考えながら、箸をつけた。大根も角煮も柔らかく、味も染みて旨かった。 そうだな。明日会ったら、旨かったって言ってやろう。 弁当箱を洗い、瑞穂の父親が貸してくれた本を読み始めた時に、電話が鳴った。 「はい、濱野です」着信の表示は、瑞穂の実家になっていた。 「龍太郎君、瑞穂は、まだそこにいるのかな?まだ、帰ってこないんだけど」瑞穂の母親が焦った声で、聞いてきた。 「え!僕が帰ってきた時には、弁当だけが机に置いてあって、いませんでした。」 龍太郎が青ざめる。 「携帯も繋がらないの。電源が切れているみたい。」 「瑞穂が通る道を探します。亜希に電話してもらえませんか?」 龍太郎は家を飛び出した。悪い予感がする。 二時間の間、各々が探し回って、瑞穂の家に、龍太郎、亜希、英嗣、八雲が集まった。 「亜希、今日、瑞穂に変わったことはあったか?」 「特に変わった所は無かった」 「よし、もう一度、龍太郎の家に行くまでの動線を探そう」英嗣が言う。 「いや、君たちは家に帰りなさい」瑞穂の父親が出てきた。 「警察に連絡をしました。これ以上拘束するのは、君たちの両親に申し訳ない」 龍太郎は 「俺は、おじさんと一緒に探す。進展があれば連絡する。今日は、みんなは帰ってくれ」 その時、八雲の母親が車で迎えに来た為、三人を乗せて一旦帰路に着くことになった。 ※ 五日が経過したが、瑞穂は見つからなかった。警察も公開捜査に切り替わり、捜索している。 八雲達も、瑞穂が通ったと思われる道で、ビラを配った。 七日目の夜に、事件は急展開を迎えた。犯人の父親が、名乗り出て、瑞穂は保護されたのだ。 ただ、かなり衰弱していた上、暴行を受けていて、緊急手術ということになった。 右眼窩がんか底と、鼻を骨折していて、下腹部へのダメージが大きかった。 スタンガンのモノと思われる、複数の火傷痕も見つかった。 一命は取り留めたものの、集中治療室に入り、面会謝絶となった。 犯人は、朝山賢哉(あさやまけんや)。龍太郎が入学の時に、投げ飛ばした男子生徒だった。 しかも、監禁・誘拐を手伝ったのは、彼の母親と言う事が分かった。 瑞穂の動線を調べ上げていた朝山は、スタンガンで失神させ、車に母親と一緒に乗せた。 朝山の母親は、日頃から息子に家庭内暴力を受けていて、協力しなければ、自分が殺されると思い、協力せざるを得なかったと告白した。 朝山は、自分がダメになったのは、この女のせいだと叫びながら、暴行に及んでいたと言う。 逆恨みによる犯行ということが分かった。 四国に単身赴任をしているはずの父が、急遽帰ってきたことで、事件が発覚し、朝山と母親は、監禁罪、殺人未遂、及び、殺人未遂のほう助罪で逮捕された。 二週間が経ち、集中治療室から、一般病棟に移された瑞穂だったが、面会を許されたのは家族と、亜希だけだった。 龍太郎は、亜希に瑞穂の様子を聞く。 亜希は何とも言い難い暗い顔で 「今は、男の人と会うのは無理かもしれない・・・」 龍太郎は 「俺は・・」と言い口を噤んだ。
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