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高校時代6(十五年前_野球部の部室にて_高校1年生_船橋中央高校)
【十五年前、濱野龍太郎 高校1年生】
先輩や同級生が帰宅してから、龍太郎と英嗣は自主練をして、部室でグラブのメンテナンスをする。
水平を保っていない、カタカタ鳴る長椅子に向かい合わせで座り、二人は、グラブについた、土を丁寧にブラシで落としていた。
「なあ、龍太郎。お前、なんで八雲にあんなに、こだわるんだ?」
「ん?英嗣。八雲嫌いか」
「いや、嫌いじゃないな。アイツなんとなく、雰囲気が、スガッチョに似てるし」
「なんだ、お前も、そう思っていたのか。」
龍太郎はグラブを目の前に、掲げて隙間に土が残っていないか調べてから、ククッと笑った。
「あいつ、腕っ節は弱いだろうに。他人の為に庇いやがった。お前はスガッチョかと!思わずツッコミそうになったぜ」
松木も、グラブにオイルを塗って、笑いながら、
「むやみに感情を押し殺している様もな。スガッチョかよ。」
「まあ、俺らが、道を外れずに、この高校に推薦で入学できたのもアイツのおかげ、なんだけどな」
スガッチョこと、須賀貴光と、龍太郎、英嗣は、小中学校、いつも三人で一緒だった。
少年野球に入部したのも一緒だったし、いたずらして職員室に呼び出される時も一緒だったし、初めて好きになった子も一緒だった。
須賀は二人よりも体格が小さく、周りから見たら二人の舎弟の様に映っていたのかもしれない。
中学に入り、龍太郎と英嗣は、1年からずっと、野球部のレギュラーで、須賀はいつも補欠のままだった。
ただ、二年生の冬に、二人が当時の監督と揉めに揉めて、野球部に来なくなり、生活が荒れた時期が有った。
地元の不良グループに誘いを受けていた二人を、須賀は必死になって止めた。
何度も何度も二人を説得し、最後は、その不良グループと二人が一緒にいるところに、一人で乗り込み、ボコボコにされながらも向かって行った。
はじめ、スガッチョが殴られるのを見ていた二人だったが、「この馬鹿が!」と、いつの間にか二人は不良グループに殴りかかっていた。
「英嗣。覚えているか。あの時のスガッチョの言葉。僕のお父さんは、警察官なので、覚悟してください!」
不良達が怯んだ隙に、三人は、全速力で逃げた。
二人は、腹を抱えながら、笑って
「なにが、警察官だ。アイツの親父は、警備員だちゅうの」
そのハッタリが効いたのか、その時の喧嘩沙汰は、表に出なかったし、その後、不良から絡まれることもなかった。(後で分かったことだが、不良の間で制服姿の須賀の親父を見たと噂があったらしい)
監督のもとへ、三人で謝罪しに行き、中学三年生の県大会を準優勝で終えることができた。
だが、須賀貴光は二人と共に、卒業することはなかった。
中学最後の冬休みに入る前に、須賀は家族と共に居なくなっていた、それは親の借金による夜逃げだった。
グラブに塗るオイルの缶を英嗣から受け取り、龍太郎は、ボソッと呟く。
「スガッチョ。元気してっかな」
相関図
濱野 龍太郎(船橋中央高校1年生)
松木 英嗣(船橋中央高校1年生)
須賀 貴光(濱野、松木の小中学校の同級生)
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