現在8(城北高校_メディア教室にて)

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現在8(城北高校_メディア教室にて)

八雲が、職員室で、明日の問題プリント作成していた時だった。「八雲先生!猫背になっているよ!」と背中を軽く叩かれた。 振り返ると、神坂奈々美(かみさかななみ)が立っている。 「おお、神坂か、もう仕事は、終わったのか?」 「いやいや、今日も22時までは、ビッシリとスケジュール入っていますぞ。表でマネージャーが秒読しているよ」と、げんなりした顔をした。 神坂奈々美は、人気グループに所属するアイドルで、しかも不動のセンターと呼ばれている。アイドル活動だけではなく、バラエティ、ドラマ、最近は、注目された映画の主演にまで抜擢され、多くの若者の支持を得ている。 「そうか、頑張っているな。微力ではあるが、応援しているよ。俺も。」 神坂の表情がパァと明るくなった。 「ウヒヒ。私、先生に、応援して貰えると、元気になるよ。そうだ、分からない問題があったからさ。教えてよ。」 神坂が、カバンから出したのは、微分積分の問題集であった。 「オイオイ、俺は物理の教師だし、数学は志田先生だろう。しかも、お前の担任だし」 と、数学教師の志田の方を向くと、志田が凄まじい形相で、八雲を睨んでいる。 志田は、神坂の担任でありながら、熱烈なファンの一人でもあった。 「え~~。この前、志田先生いないからって、教えてくれたじゃん。志田先生は、ちょっと分かりづらいし、なんとなく、圧がね・・物理の教科書を机の上に出していたら、ほら、分かんないでしょ」 「神坂は物理を選択してないじゃないか。」と言ったが、神坂は目の前で、手をパチンと合わせて、お願い!と言っている。 「分かったよ。どの問題?」八雲は、問題の解き方のヒントを出すと、神坂は、あっという間に問題を解いていく。 仕事の合間に勉強をしている様だが、彼女はいつも学年でトップグループにいた。 「ありがとう。先生。やっぱ教え方上手いわ。」 「アカデミー新人賞、獲れるかもしれない、大女優さんから、褒められるとは、俺も光栄だな」 「え!先生、映画見てくれたの。嬉しい。ん?誰と見に行ったのかな?+さては、彼女かな!」 「まあ、そんなところか」 「え!先生、彼女いるのか~そうか~。うわーへこむわ~。今日の仕事に影響あるよー。それ。」と、神坂は冗談めかして笑う。 「ねえ、先生の彼女って・・」その時、神坂の携帯が鳴った。 「うわ、マネージャーから呼び出しだ。じゃあ、先生、また教えてよね」と言い、携帯とカバンを持って、職員室から出て行った。 f0b775dd-dc2b-4c90-b2ad-0a5f798e0261                         イメージ:神坂奈々美 夕方5時をまわったところで、八雲はメディア教室に向かった。 メディア教室は、生徒に常に解放されており、理系のクラブや、生徒会などが使用していた。 ただし、使用するには各人にアカウントがあてがわれていて、ログイン認証が必要となっている。これは八雲が管理していた。 メディア教室の開放時間は夕方5時半迄で、施錠は、八雲が担当していた。 施錠するまでの間、八雲はメディア教室から行き来きができる隣のサーバー室に入り、管理端末で作業をする。 校内のファイアウォールで、ほぼブロックはしているが、有害サイトへのアクセスの有無。ゲームサイト等へアクセスしていないかを調べる。発見すれば、そのサイトやドメインをブロックリストに追加していく。 これが、なかなかのイタチごっこで、どうしてもスルーされるサイトが出てくる。 先日は、学校の裏掲示板サイトと呼ばれるものを八雲が見つけた。そこには、驚いたことに、ある倫理教師のアカウントとパスワードが張り出されていた。教師のアカウントは、上位にグループ化されていて、成績サーバーにアクセスできる。 興味本位で掲示板を作った女子生徒の3人グループが、成績サーバーの事を知らなかった為に事なきを得たが、重大なセキュリティインシデントになる可能性があった。その女子生徒に話を聞くと、倫理の荒川先生が冗談で教えてくれたと話した。 年配の倫理教師は、校長から厳重注意を食らってから、八雲の元にやって来て謝罪したのだが、去り際に「いやぁ、便利になると言うのも両刃の剣ですな。八雲先生」と飄々としている姿が、やけに腹が立った。 女子生徒達は、停学処分になりかけたが、彼女たちの親が、教育委員会に話すと言い出し、セキュリティインシデントの漏洩を恐れた校長が天秤にかけて、処分を免れた。 しかし、彼女たちのアカウントは凍結、2か月間のトイレ掃除処分となった。 今日の作業では、問題が無い事を確認した八雲は、引き出しから、龍太郎が持ってきた封筒を取り出して、そのアクセスログを眺めるaとbに10枚ずつ分けられたログは、時系列を同じにしている。 数カ所に、佐分利刑事が付けたと思われる蛍光ペンの印がある。 龍太郎が言うには、これは被疑者二人のパソコンのもので、同じサイトにアクセスしている箇所がいくつかあるので印を付けたという事だった。 その中で、怪しいと思ったものは、赤い蛍光マークがついていると言う。 八雲がチェックしてみると なるほど、ヤフーや、グーグルなど、誰もがアクセスをするものには黄色の蛍光マークが付いている。 「赤いマークは・・・・・ん?確かに水曜日と木曜日に同じサイトにアクセスしているな。」 赤いマークのアドレスを、入力して、エンターを押す。 画面に現れたのは、404(404 not found)のエラー表示だった。 その後、管理端末を使って、過去に、メディア教室から、そのアドレスか、ドメインにアクセスした形跡があるかを調べたが、ヒットしたのは、先ほど八雲が確認した時のものだけであった。 時計を見ると、5時半を過ぎている。八雲はサーバー室から出て、メディア教室の生徒を退出させ、施錠をして職員室に戻った。 相関図 八雲 直毅(城北高校の物理教師) 神坂 奈々美(城北高校生徒・アイドル)
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