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◻︎
「ごめん潮音さん。この子も乗せて。」
「おーお疲れ様……は!?」
今日はマネージャーが風邪で休みのため、代わりに潮音さんが迎えに来てくれた。
潮音さんは、ナインズプロの神原社長の息子であり、たまに会議をして優雅に暮らす、くらいの地位であることは間違い無いのだがこの親子に限ってはそうはいかない。
社長も秘書を困らせるくらいに動き回るし潮音さんにいたってはバリバリの営業マンだ。
雑用レベルの仕事も勿論やるし、こうしてマネージャーの代わりにも働いている完全なワーカホリックだと思う。
「あの…!私、」
腕を引っ張って連れてきた彼女は、戸惑いを隠せない表情でそう話しかけてきた後、言葉を続けること無く俯いてしまった。
「さっきの人から逃げたいんじゃないの。
別に遠慮するならそれでもいいけど。面倒なことはしたくないし。」
自分でも冷たい言い方だと思うが、無理強いをしたいわけでもない。面倒なことを避けたいというのも本心だ。
「…お、お願いします…」
「うん。早く乗って。」
やはり頼りなくそう言った彼女に、後部座席のドアを開けてそう促す。
「おいおい昴くん。俺許してねえけど。」
「ごめん潮音さん。緊急事態。」
そうして反対側の後部座席に乗った俺は、そう潮音さんに告げる。
大きく溜息をついて、俺と隣の彼女を交互に見た潮音さんは
「……え、彼女?」
と、高校生のような聞き方をしてきた。
「違う。早く車出してください。」
「えー昴がそんなムキになって、珍し。」
若干イラついてそう伝えると、潮音さんは少し楽しそうに笑って車を勢いよく発進した。
とりあえず安全運転でお願いしたい。
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