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暫く車を走らせていると、隣に座っていた彼女は姿勢をきっちりと正したまま、こちらに上体を向けた。
「た、助けていただいてありがとうございました。」
「…うん。で、あんた何者。」
「三ツ谷ひよりと言います。18歳の高3です。」
「…お前、犯罪では…」
「潮音さんうるさい。大体人のこと言えないでしょ。」
運転席でそう言う潮音さんを制してミラー越しに睨む。
潮音さんの奥さんが、うちの事務所の看板シンガーソングライターの"ミツキ"だというのは業界でも有名な話だ。
その昔、高校生だった美月さんの声(多分声だけじゃ無いが)に惚れ込んでスカウトをし続けたらしい。
自分のことを冷やかされるのは気にくわないのか、潮音さんは不満げに目を細めてそれ以上は何も言わなかった。
「あの、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」
ぺこり、そう頭を下げる彼女はやはり綺麗な顔立ちをしていた。
「……別に、良いけど。新人?」
「…い、いえ!私は芸能の仕事をやってるわけではないんです。
私の弟が、今子役として活動していて、たまに放送局に様子を見に来ていて…」
「弟…」
「その弟さんも今日は一緒じゃなくて良かったのか。」
潮音さんがそう尋ねる。
なんだかんだこの人、お人好しだと思う。
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