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「かえでは、
"ひい姉は、ぼーっとしてるからあんな世界では絶対に生きていけない。"
そう言って、私の代わりに芸能界に入りました。」
「しっかりしてるんだな」
本当に私なんかよりも、と切ない表情で頷いたひよりは話を続ける。
「…有難いことに、かえではデビューしてすぐの頃からたくさん仕事をいただいています。
でも。それを理由に事務所が所有するマンションで生活をさせると言われて、そこからはずっと別々に暮らしてきました。
私は高校を卒業した後の就職先がなんとか決まって。
収入も少しは安定するから、やっとかえでのことを迎えにいけると思っていました。
かえでには、これからは、勉強して、友達と遊んで、そういう普通の小学生としての生活を送ってほしいと思って、いたんですが…」
「…ひより。」
話す彼女の声が、震えて小さくなっていく。
「今日、松原さんに呼び出されて、かえでの芸能活動はこれからも続けさせると。
折角軌道に乗ってきたこのタイミングでの引退は、今まで世話をして来た自分に対して恩知らずだと思わないのか?そう言われました。
だから、そのまま継続して離れて暮らしてもらうと…
____それを、かえでは迷う事なく了承したと。」
苦しそうにそう言ったひよりは、口元を右手で覆う。
涙を押し殺そうと、全身に力が入っていると分かった瞬間、俺は自然とその細い肩を抱き寄せていた。
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