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「……私はあんたのせいでまさにあの撮影期間、そのようなストレスを受けてましたけど。」
「…だから悪かったって言ってるだろ。」
「ねえ謝罪しながら舌打ちってなんなの?それ相殺されてるから。むしろマイナス。」
「…うるさ。」
がやがやとスタッフが行き交うスタジオの一角。
横並びの折り畳みチェアにお互い座っている中で、俺の考え方に文句を垂れている女は、今や国民的女優としての位置を確立している國立 志麻だ。
「穂積さん!前カットの影響で、ちょっと待ち時間延びます!お待ちください!」
「はい、了解です」
慌てた様子で伝えに来たスタッフへ瞬時に笑顔を作って答えると、隣の女が「出た、詐欺スマイル」と失礼な感想を漏らす。
――穂積 昴、26歳。
俳優として、芸能界という厄介な世界に足を踏み入れてからもう、そこそこの年月が経過している。
芸歴だけで言うならば、志麻よりは相当先輩に当たるが、この女にそんな遠慮は、もはや皆無だ。
初めての共演を果たした時、俺はとにかくこいつの本性を暴くことしか考えていなかった。
俺の所属する事務所、ナインズプロダクションの看板俳優である翠さんは、今から4年ほど前、ゴシップ記事の餌食にされていた。売名行為を企むリネンプロダクションという事務所の思惑に巻き込まれていた、という言い方が正しいかもしれない。
そんな中で、彗星の如く現れたリネンプロの新人女優の志麻とも、翠さんは写真を撮られた。
何度も続くスキャンダルは、事務所内でもそれなりに大ごとになった。
結局、志麻との記事は不発に終わったが、詳しいことを聞かされていない奴らからすれば、"また"あのリネンプロが、翠さんを利用したのだと思ったはずだ。
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