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「お疲れ様です!」
大きくハキハキした声で、周りのスタッフに挨拶をしながらスタジオを出ようとするその小さな姿を俺は入り口に寄りかかって見つめていた。
大人顔負けの演技で、最近話題の美少年。
「…すばる!」
「…よ。」
こちらに気づいてぱたぱたと飼い主を見つけた子犬のように駆けてくるかえで。
「今日の仕事終わり?」
嬉しそうに笑うかえでの頭を撫でながら、俺は頷いた。
"あの日"から数週間。
俺は時間がある時は、かえでに会うようになった。
お互い連ドラの撮影があるため、スタジオの時間がかぶることが多い。
「…で、その時のセリフのトーンとかスピードが凄くて…!」
かえでは、俺によく演技の話をする。
レッドだったことが上手く作用しているのか、懐かれている方だとは思う。
しかし。
「……演技の話は分かったから。
今日こそは、姉ちゃんとのこと話してよ。」
「……」
俺の楽屋のテーブルに向かい合うように座り、頬杖をついたままかえでにそう言う。
「俺が話すことないよ。」
少しふてくされて、そう呟くかえで。
「…おい。姉ちゃん助けてって言ったのはかえでだろ。」
「……レッドは、理由なんか言わなくても助けてくれるんじゃないの。」
「残念。俺はレッドじゃなくて穂積 昴としてかえでと話してるから。」
そういうの屁理屈って言うんだぞ、と少し鼻息荒く非難するかえでに、俺は笑みを貼り付けたままだ。
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