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「……穂積さん?」
座っていた俺は、背中を背もたれに預けて空を見つめる姿勢になる。両腕で目を覆った。
咄嗟のそれは、言葉にできない感情が溢れて、零れてしまいそうだったから。
なんで俺、泣きそうなんだ。
「………あー、もう、」
演じている"俺"を知らないはずのひよりは、いとも簡単に俺の心をすくい上げる。
一生特別、なんて。
とんだ殺し文句なんだけど、こいつは分かってんのかな。
というか、やっぱり名前どころか顔も覚えてねーじゃん。
「ほ、穂積さんどうしました…!?」
様子がおかしいと思ったのか焦った声色で立ち上がって尋ねてくるひよりに、俺は思わず笑った。
"とうとう昴にも特別な子ができたってこと?"
そうだよ、認めるよ。
俺のことを知らない、俺の張り付いた笑顔が通じない、こいつが最初から気になった。
俯く表情とあまりに頼りない細い体に、手を伸ばしたくて。
アイスブルーの瞳から、目を逸らせなかった。
俺は、ひよりとかえでを、
この不器用な兄弟を、助けたい。
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