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慣れた手つきで、瓶ビールをグラスに注ぎながら彼は軽くそう言う。
沈黙の時間に、ビールの炭酸音が嫌に響く。
不自然なほど穏やかな彼の口調は、逆に私の鼓動を速めていった。
「…君が、というよりは。昴が近づいてる感じなんだろうけど。
あのね。ああ見えて、昴って凄い人気なんだよね。」
「…は、い。」
持っていたおぼんを握る手に力がこもる。
何を言われるか、予想できてしまった自分が憎らしくさえ思えた。
「自分がこんな、ありきたりで面白くない言葉使うことになるとは思わなかったけど。
君と昴は、"住む世界が違う"、から。
何が言いたいかは、きっと分かるよね。」
「、」
当然のことだ。
むしろ何故今まで、気づかなかったのだろう。
あの世界で活躍する穂積さんは、誰からも注目される存在で。
それは、"私が側にいたら"起こる危険があるということだ。
"____ひより。"
少しだけぶっきら棒にそう呼んで、時折、悪戯に笑う彼の笑顔を思い出して、私はぎゅ、と目を瞑った。
目蓋の奥が熱くて、でも、その理由に私は気がつきたくない。
"…ひより。絶対に居るからね。"
お母さんの言葉の続きを、今は思い出したらダメだ。
何かを振り切るように目を開けた私は、やはり微笑みを緩めないまま、こちらを伺う彼を見つめた。
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