03.レッドは、知る

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「…あの松原ってババア、まだ諦めてない。」 俺の手を握り返すのと逆の手で、ゴシゴシと涙を拭いながらそう言うかえで。 「…どういうこと。」 「あいつ、ひい姉をデビューさせたいんだよ。」 「、」 「そろそろ、俺と暮らしたいならデビューしろとか、言い出すつもりだと思う。」 「なんだよそれ…」 「俺は、この仕事が好きだから良いんだ。 でも、ひい姉は違う。ちゃんと夢を見つけて、これから働くんだ。 こんなこと知ったら、ひい姉は俺と居るためにこの世界に入るとか、言い出すかもしれない…」 「…それで、ひよりを遠ざけてたのか。」 「…ひい姉が俺を嫌って、諦めてくれたらと思って。」 どうしてこの兄弟は、お互いがお互いをどんなに想っているのか、そこの部分の感度だけが鈍いのだろう。 大事で、大事過ぎて、すれ違うなんて。 本当に不器用な兄弟だと、俺は息を吐いて小さく笑う。 「馬鹿だな。そんなの絶対あり得ないだろ。」 あのブラコンが、かえでを嫌いになる筈もない。 「…俺は、どうしたらいい?」 濡れた青い瞳が、不安げに揺れた。 俺は、握る手に力を込める。 「安心しろ。俺が、守るよ。」 アイスブルーの瞳を細めて、遠慮がちに笑う彼女。 誰が、渡すかよ。
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