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「…あの松原ってババア、まだ諦めてない。」
俺の手を握り返すのと逆の手で、ゴシゴシと涙を拭いながらそう言うかえで。
「…どういうこと。」
「あいつ、ひい姉をデビューさせたいんだよ。」
「、」
「そろそろ、俺と暮らしたいならデビューしろとか、言い出すつもりだと思う。」
「なんだよそれ…」
「俺は、この仕事が好きだから良いんだ。
でも、ひい姉は違う。ちゃんと夢を見つけて、これから働くんだ。
こんなこと知ったら、ひい姉は俺と居るためにこの世界に入るとか、言い出すかもしれない…」
「…それで、ひよりを遠ざけてたのか。」
「…ひい姉が俺を嫌って、諦めてくれたらと思って。」
どうしてこの兄弟は、お互いがお互いをどんなに想っているのか、そこの部分の感度だけが鈍いのだろう。
大事で、大事過ぎて、すれ違うなんて。
本当に不器用な兄弟だと、俺は息を吐いて小さく笑う。
「馬鹿だな。そんなの絶対あり得ないだろ。」
あのブラコンが、かえでを嫌いになる筈もない。
「…俺は、どうしたらいい?」
濡れた青い瞳が、不安げに揺れた。
俺は、握る手に力を込める。
「安心しろ。俺が、守るよ。」
アイスブルーの瞳を細めて、遠慮がちに笑う彼女。
誰が、渡すかよ。
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