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「し、失礼します…っ、」
暫くして、真っ青な顔のひよりが現れた。
「さっき、また寝たところ。」
駆け寄ってきて、すやすやと眠るかえでの姿を見たひよりは、肩の力が抜けたようだった。
「よかった…、
今の私は、かえでの体調不良にも気がつけないんですね。」
頼りなく、かえでの頬を撫でながらそう呟くひより。側に居たい。その気持ちが痛いほど伝わる仕草だった。
"そろそろ、俺と暮らしたいならデビューしろとか、言い出すつもりだと思う。"
かえでの言葉を思い出し、俺はなんだか不安になってひよりの名前を呼ぼうとした。
すると、こちらを振り返るひよりと視線が交わる。その表情は不安で覆われていて、最近やっと見せるようになった明るい笑顔とは程遠かった。
「……穂積さん。今まで、たくさんご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
深々と、座っている俺に向かって一礼したひより。
「…なに、改まって…」
「…明日、松原さんとお話することになりました。」
「……は?」
「…このまま、逃げているわけにもいきません。
きちんと話をして、分かっていただける努力をします。」
「ちょっと待て。あの女に呼び出されたのか。」
俺は自分でも分かるほどに困惑した声で、ひよりに答えを急かす。
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