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◻︎
「…久しぶりね、ひより。」
「…はい。連絡もせず、申し訳ありませんでした。」
松原さんと会うのは、あの日以来だ。
辛くて苦しくて、だけど立ち向かう勇気は無くて逃げ出したあの日、私は穂積さんと出会った。
「あの日、貴女の手を引いてたのは誰?」
「……スタッフの方です。体調が悪そうなわたしを心配してくださっただけです。」
「…そう。」
良かった。穂積さんのことは、バレていないようだ。
「松原さん。私はやっぱり、これからはかえでと暮らしていきたいです。」
震える身体を鼓舞して、私は真っ直ぐに彼女を見つめてそう言った。
コーヒーカップに口をつけていた松原さんは、ゆっくりとそれを外して驚いたような顔をした。
「……前にも言ったわよね。かえで、仕事の調子が凄く良いの。こんなところで辞めるなんて勿体無いことはさせられない。
それに、ひよりとこれからも離れて暮らすこと、かえでは構わないって言ったのよ。」
「かえでが、そう言ったとしても。私は絶対諦めません。だって、私が一緒に居たいんだからっ…」
かえで、面倒なお姉ちゃんでごめんね。
でも、もう諦めたくない。
私、かえでと一緒にいたいの。
「まるで子供ね。そんな我が儘が通ると思う?」
「…かえでが、この仕事をどう思ってるのか、きちんと話をさせて下さい。続けるにせよ、辞めるにせよ、それを尊重したいと思っています。」
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