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「だから。そういう一方通行が罷り通ると思っているところが子供なの。…でもそうね、かえでの仕事についてはそれでも良いわよ。
___ただし、貴女が代わりにデビューするのなら。」
「……え?」
背筋が凍るような、そんな感覚に私は動けなくなってしまった。
コーヒーカップを置いて、ハイヒールをコツコツと鳴らせながら私に近づく松原さん。
「……ひより、どうせ自分では決められないでしょ?だから、とっておきのステージ用意しておいたの。」
「ステージ?」
戸惑う私を前に、口元に綺麗に弧を描く松原さんはリモコンでテレビを付ける。
"本日のトークコーナーには、今話題の美少年、
仁志かえで君が来てくれています!"
「かえで…!」
テレビに映るのは、紛れもなく私の弟だった。
「丁度始まったわね。朝の生放送で、この歳でオファーされるなんてかえでも本当に有名になったわよね。」
テレビに目を向けながら、落ち着いた口調で笑う松原さんの隣で、私は言葉が出てこない。
"今日はなんと、番組の後半ではサプライズゲストが来てくださるそうですよー!"
"そうなんです。驚きました。でも僕の大事な人なので、楽しみです。"
ニッコリ笑うかえでは、受け答えが完璧だった。
でもその笑顔を前に、私は冷や汗が止まらなくなっていく。
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